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第15話 ボンド3

 その時、僕の方にもある変化が起きていた。抱きしめられる度に、じわりと胸の奥が熱を持つようになっていたのだ。それは、ちょうどあのパートナーのいないセンチネルの刻印の入っているあたりだ。そこが、やけに熱い。 「やだ、何それ。なんだかロマンチックじゃない。運命っぽくて良いわね。……あれ? そういえば、ユキ。コウが触れても痛くないの? コウもガイドなのよ。あんたいつもレベル差があると痛みがあるって言ってたじゃない。私くらいしか触れられないって。それはないの?」  そう言われて、初めて気がついた。そう言われれば、コウが抱きしめても僕は痛みを感じない。いつもなら、レベルの低いガイドから触れられるだけで、そこから痺れるような痛みを感じる。握手やハグになろうものなら、針で刺されるような痛みまで感じるのが常だ。  それなのに、こんなに思い切り抱き竦められていても、痛みが全くない。それどころか、あまりの心地よさに、その腕に頬擦りをしたいくらいだと思っている。そして、話しかけられるたびに、その声の甘さにふるりと身が震えるのだ。それが続くと、身も心も解けていきそうになってしまう。 「うん。痛くないよ。それどころか、すごく触って欲しくなるんだ……。なんでだろう」  そう言葉にする頃には、またお酒が回ってきたかのようにふわふわとした気持ちになっていた。  その腕の中があまりに心地良くて、それを与えてくれる腕に夢中になってキスをした。コウはそれを止める気配もなくて、されるがままになっている。久しぶりに感じるポジティブな感覚に浮かれた僕は、彼の体に抱きついて甘え続けた。 「抱きついてると癒されますか?」  体を起こして胡座をかいた彼が、僕の頭を撫でながらそう訊ねる。それに答えようと、下からその顔を見上げた。ふ、と目が合う。そのまま、彼の中に引き込まれてしまいそうな気がした。 「うん、どうしてだろう。すごく落ち着くんだ」  僕がそういうと、彼は僕を見下ろしたまま優しく目尻を下げる。ふわっと緩んだ雰囲気に、精神感応(テレパス)で意思を伝えて来た。 『それなら良かった』  コウは、小麦色の肌に、腰まである長い黒髪が印象的な男だ。凛々しい眉に黒目がちで大きな目、美しい鼻梁と肉厚な唇を持っている。  全体的に柔らかな印象を持たせるのに、肉体の作りはとても頑丈なようで、がっしりとした体は分厚い筋肉に覆われている。緩やかに編んである長い髪が、あの好々爺に似ていた。  ぬるま湯に浸かるような優しい時間にうっとりとしていると、こちらへ伸びた手が僕の髪を優しく梳いていく。 「手は打ったみたいだけど、頭は打たなかったみたいですね。良かった。腕の痺れは治りました?」 「うん、大丈夫」  その気遣いが嬉しくて、思わず目を細めた。 「あらあら、よっぽど相性がいいのかもね。あんたたちってレベルが高すぎて相手が見つからなかったでしょう? それだけ相性がいいなら、ボンドしておいた方がいいんじゃない? 逃したら、一生悔やまないといけないと思うわよ」  ママがそう言って嬉しそうに笑った。軽口を叩きながらも、その頬には涙が滑り落ちてくる。  彼女は、ずっと僕の未来を心配してくれていた。ガイドにはセンチネルはいなくても生きていける。でも、センチネルにはガイドの存在は不可欠だ。僕も自分の力で押さえ込んでいくには、あと数年が限界だろうと言われていた。僕自身も、その言葉の本当の意味を、この数ヶ月で痛いほど感じていた。 「えーちょと、そんなに都合のいい話なんてないでしょ。僕はそんなに楽観的じゃな……」  言葉とは裏腹に、ママの言う通りだったらいいなと思いながら密かに浮かれていると、ふと何か模様のようなものが目に入った。どうにも気になって、まだ微かに酔っていて定まりにくくなっている焦点を、必死になってそれに合わせていく。 「何これ、足がいっぱいある……」  ようやくそこに描かれているものに気がついた時には、そのあまりの悍ましさにパニックを起こし、思わず大声で叫んでしまった。 「っぎゃー! ム、ム、ムカデっ! それに、蛇! やだ、気持ち悪い……」  そこまで叫んでしまってから、後悔してももう遅い。聴覚が自分の大声に刺激され、激しい刺激の洪水となって襲いかかって来た。高レベルセンチネルとは思えないバカげた失態に、自分で呆れてしまう。 「あ、やば……い……」  聴覚刺激による眩暈は、激しい回転性のものになる。それを調整しようとした体は、すぐに感覚を遮断しようとした。それでも間に合わず、ぐらりと景色が反転していく。自分に呆れながら、ゆっくりと意識が遠ざかっていった。  もしかしたら魂を繋げられる相手に出会えたかもしれない。そう考えて浮かれたセンチネルは、自分で自分を窮地に追い込んでしまったのだ。あまりに間抜けで笑えてしまう。 ——あ、でも……。このまま力尽きてもいいのかもしれない。  幸せに生きるか、絶望を終わらせるか。そんなことを考えながら、僕は真っ暗な意識の底へと落ちていった。

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