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第17話 僕を導く人2

「んっ……」  それを聞くだけで、ささくれだった心に潤いが染み込むような、柔らかい快楽が生まれる。じわじわとヒビだらけになった神経を潤わせていき、理解を求めて飢えていた心は、その蜜を急速に吸収していった。 「お、いい反応だ。それなら……」  淡い光は、つないだ手の間からだんだん僕らの体の周りへと広がり、丸いカプセルのような形へと広がっていった。 「もう命が危ないレベルまで迫ってる。ちょっと接触深めるけど、いいよな?」  まるで優しさを糸にして編んだような、不思議な檻に囲まれていく。今まで一度もこんな風に甘やかされたことのなかった僕に、回復と優しさを提供されて、拒否なんて出来るわけが無い。  いや、正確にいうと嬉しくて仕方が無かった。僕はすぐに頷いて、寧ろそれを強請るような気持ちを抱いていた。きっとそれは繋いだ手から伝わったのだろう。ふ、と笑みを浮かべて、その顔が迫って来る。 「ん……」  完成した檻の中で、コウの唇がゆっくりと僕に触れる。暖かくて柔らかい人の温もりが、薄い皮膚を通して伝わり、触れては離れていく。 「ん……、はぁっ」  本当に、どうしてなんだろうか。彼が触れても少しも痛くならない。触れ合う場所から流れ込んでくるエネルギーは、ただひたすらに僕を心地良くさせていくだけだった。  彼が触れるたびに、身体中の細胞が光る。きっと今の僕を側から見たら、身体中が発光しているように見えるんだろう。それも、眩いくらいの閃光に包まれているはずだ。そう思うくらいに、急激な回復が行われていた。 「はあ、ん……」 ——ケア、だ、これ。  僕はこの時、生まれて初めての完全なるケアを受けた。苦痛からの完全なる軌道修正。幸福を感じて喜ぶ細胞たちが、その導きの正しさを告げている。 ——こんなに、嬉しい、もの、なの……?  切なかったお腹の奥の方に加えて、背中からぞくぞくと小さな快楽が生まれつつあった。  小さな幸福の泡が次第に集まり、波のように体を流れていく。それは、これまで一度も経験したことの無いもので、痛みではない刺激に慣れていない僕は、たまらずに叫び声を上げてしまった。 「あっ……ン、ぁああっ!」  背中を仰け反らせ、握っていた彼の手を思い切り握り込む。それでも逃すことが出来ない愉悦が、次々と湧いては襲いかかってきた。 「やだっ、何これ……。体が……熱いっ……!」  今は能力制御用のアクセサリーを何もつけていないから、コントロールは精神力だけに頼っている。そんな状態でお酒を飲んだのだから、ほぼ無防備な状態だ。  その丸裸の触覚に、経験したことのない刺激が送り込まれる。その変化に心がついていかない。  気持ちよくて、なんだか嬉しい。嬉しくて、泣きそうになる。感情が忙しなくせめぎ合ってしまって、ついには恐ろしくなってしまった。 「ユキ、やめた方がいい?」  僕の反応に戸惑ったのか、コウは手を握る力を緩めた。そして、心配そうに僕の顔を覗き込んで来る。  キリッとした凛々しい眉、鋭いのにどこか温かい目、すっと通った鼻梁に大きな口。浅黒い肌に少し曲線のある長い髪、そして、鍛えられた体躯。改めて見ると、どこをとっても美しくて妖艶だ。  驚くほど香る肌の匂いも、全てが僕の神経を良い方へと波立たせる。 「でも、まだ離れんなよ。それとも、もう少しゆっくりの方がいい?」  そう問いながら、彼は一瞬僕から離れようとした。その時、僕は急に彼を離したくないという想いに駆られた。  どうしてかはわからない。でも、何かが確実に燃え上がった。 ——彼が欲しい。  その想いが、急激に僕の積極性に火をつけていく。 「いや」  さっきのように、もっとして欲しくてたまらなくなった。怯んだ彼を逃してはいけない。それしか考えられなくなっていた。 「やめないで」 「うわっ」  僕は彼の服を掴んでその顔を引き寄せると、少し戸惑っている唇を自分から奪いにいった。どうすればいいのかも分からないけれど、ただ必死になってその口に縋り付く。 「んっ……あ、ン」 「は、ユ、ユキ……、ちょっ、おい……」  夢中になって口付けていると、コウが僕に気圧されてているのが伝わって来た。でも、どうしても離れたくなくて、どうしてももっと欲しくて、僕は彼のシャツを掴んだ手の力を緩めることが出来ない。 ——気持ちいい、もっとしたい……。  僕は決して欲に流される方では無い。そうでなければ、高レベルセンチネルに生まれながらガイディングを受けずに生きていくことなんて、不可能だった。それなのに、今は少しの我慢も出来そうにない。 ——もっと深く繋がりたい。  体が、少しでも深く彼と繋がる箇所を増やそうとして、躍起になっている。心も彼を求め始めている。  それまで誰にも縋れなかった僕が、やっと頼れる人を見つけたんだ。そうなっても仕方ないだろう……。そんな風に言い訳をしながらも、気づけば恥も外聞も脱ぎ捨てて、必死に体を彼に擦り付けていた。

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