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第20話 胸に咲く花1
「え、なに? 蓮華……?」
僕が戸惑っていると、コウはふっと妖しく微笑んだ。それなのに、僕の問いには答えようとしない。
蓮華がどうこう言われたのはわかったけれど、それが何を表しているのか、僕には全く検討がつかなかった。
しかも今、僕の頭の中は他のことで忙しい。難しいことを考えるよりも、背中にのしかかる重みと温もりが僕の身体中の細胞を喜ばせ、棘を持った神経を撫で回すように蕩けさせていくのを感じ取るのに必死だ。
自分がこんな風になるなんて、今まで想像もしたことがない。これまでの人生で、快楽だけを追いかけたことなど、本当に一度も無かったんじゃないだろうか。
僕の生活といえば、ただ毎日ひたすらに人の病巣を見つけ、必死になってその人が亡くならずに済む方法を探す手助けをするばかりだった。
運悪く命が尽きる時を迎えることになるとしても、それを最初に知るのはいつも僕だ。本人よりも先に、僕がそれを察知してしまう。その時の辛さは、とても言葉に出来るものでは無い。
そんな風に、仕事だけでも僕にかかる負担は大きい。それを抱えて生きていくのは、とても辛いことだ。それなのに、今はプライベートも重くのしかかっている。
ガイディングなしで生きていくということは、ずっとその重苦しさを抱えることになる。ポジティブな感覚を持とうと頑張ったとしても、どうしてもそううまくはいかないものだ。
だから、こんな風に気持ちよさを追いかけて夢中になるということに慣れていない。コントロールの仕方が全く分からなくて、コウが与えてくれるものに翻弄されるばかりだ。
「あ、んっ……」
口を噤んだままのコウの指が、前触れなしに僕の後孔へと入ってくる。でも、少しも痛みを感じない。ゆっくりゆっくり、信じられないほどの根気強さで進んで来てくれているからだ。
痛みを感じやすいセンチネルは、最初は全ての感覚を小さいものから受け入れていかなければならない。
だから、ガイドにとっては、ケアが初めてのセンチネルとの行為は、かなり気を遣うものになる。相手を理解しないままに好き勝手に抱いてしまえば、僕らは簡単に壊れてしまうからだ。
やり直しのきかない面倒な相手だろう。でも、コウは僕が何も言わなくても、嫌だと思うことは自然と避けていく。その代わりに、少しでもイイと思ったところを、すぐに察知してくれているようだ。
「ん、……ぁあっ」
『ここが好きなのか?』
問いかけは全て精神感応 だ。静かな部屋の中で聞こえてくるのは、僕の乱れた声と、コウが僕を溶かしていく音だけ。自分から鳴る音の淫靡さに、思わず顔が熱くなる。
「はあ、……ンやあっ」
『ユキ、顔上げて』
恥ずかしさに顔を伏せていると、彼の手がそっと僕の顎を支えた。そして、少し強引に僕の顔をぐっと引き上げる。
「あ、ここ……」
すぐそこに見える壁を見て、僕は初めて自分がどこにいるのかを理解した。ここはプルシアンのケアルームだ。僕はいつの間にか、そこにある大きなベッドの上に、うつ伏せに組み敷かれていた。
どうして分かったのかと言うと、その壁の一部が大きな鏡になっているからだ。自分には縁のない場所ではあったものの、少し前に一度好奇心で中を覗いたことがある。
その壁一面の鏡を見ているだけで、ここに映るものを想像し、羞恥したことを思い出した。その鏡に、今は真っ赤になった自分の顔が見えている。
「なっ、やだ、見せないでよ」
初めて気持ちよくケアを受けられるのかと思っていた僕は、思わずその状況に狼狽えた。
もしかして、コウは変なプレイを僕に強いようとしているのだろうか。それなら、それはちょっと遠慮願いたい。そう思っていると、コウがぷっと可愛らしい音を立てて吹き出した。困ったように眉根を寄せて、でも楽しそうに笑っている。
「っはは。ばーか、そんなことしないよ。でも、ちゃんと見てくれ。あんたに教えたい事があるんだ」
「教えたいこと? ……あっ、ちょっと! そこ触ったら、……だめっ」
『俺がお前の中に入ったら、自分の胸のところを見てみろ』
そう伝えながらも僕の熱の中心を弄び、背中をゆっくり吸い上げる。中からも優しく撫で回されながらだから、その快楽の波に体を支配されているみたいだ。
僕はもう、ただそれを受け取ることに必死で、何も考えられずに翻弄されていくばかりになっていた。その波の止め方もわからなくて、あっという間に奥の方が切なくなっていく。
「ンっ……あ、あ、っ!」
まるで長湯したように思考がぼんやりと蕩け始めていたけれど、彼の言う通りに鏡の中の自分を見続けた。
短い音を繰り返すだけの口からは、その端の方からたらりと唾液が垂れている。自分のそんな姿を見ているだけで、恥ずかしくて逃げ出したくなってしまう。
『……入るぞ』
それなのにコウは構わずに僕の腰を掴んだ。思わずそこに意識が向かい、体がビクリと跳ねる。今だってこんなに気持ちいいのに、ここに彼を迎えたらどうなってしまうのか……。そう思っていると、つ、と先端が触れた。
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