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第21話 胸に咲く花2
「っ……!」
思わずびくりと体が跳ねる。
「あ、あ、あっ……」
押し当てられた熱塊が、緩んでヒクついたところを押し開いた。そこから奥へと向かう道を、さらにゆっくりとこじ開けていく。
「は……、っあああ」
その感覚が身体中の神経へと広がっていく。まるで星の海が生まれたように、僕の細胞はまた一つ一つ光り、その興奮の波が押しては引いていく。身体中から消失しかけていた生きようとするエネルギーが、まるでその喜びを糧に蘇っていくようだ。
「ああっ、あ、やっ……」
濡れた音を連れた律動が、その悦びを高めていき、僕の中に欠けていたものを完全体へと戻した時、耳元に小さくコウが呻く声が聞こえた。
「っ……」
それが耳から僕を蕩けさせていく。コウが僕の手をギュッと握りしめた。それと同時に、僕の中に、ゆっくりと温かいものが広がっていく。
——あ、何だろう。なんだか体が軽い。
さっきまでもガイディングを受けていたから、それなりに体は楽になっていた。だって、僕はガイドと私的に手を握ったことも無い。僕にとっては、キスや愛撫をされるだけでも、相当に深いケアだと思っていた。
でも、実際に体を繋げて貰ってその精を受けてしまえば、今までこれをされずに生きて来れた事が信じられなくなってしまう。そう感じるほど、本当に深いケアはセンチネルを完全回復させるのだということを、身を以て知った。
『ユキ、見てみろ。お前の左胸』
自分の体に漲る力に驚き呆然としていると、コウが少し震えながらそう言って、僕の体を抱き起こした。
「え? 胸?」
言われて鏡の中の自分を見てみる。するとそこには、初めての深いケアに幸せそうに蕩けた表情と、同じように力が抜けて紅潮した体の僕がいた。
「……何、これ」
その赤い肌の中には、真っ白な蓮華の花が一株、凛と咲き誇っている。
「い、今までこんなの無かったはずだよ」
その花は、左胸を覆うように咲いていた。蓮華の特徴である薄い花弁が上を向くように重なり、放射状に咲いている。
中央にある雌蕊 がはっきりと見えていた。つまり、蓮を描いたものとしては珍しく、真上から見た姿が描かれている。
「おー、キレイに見えるな。さすが師匠、やっぱり腕がいい」
コウは、僕の中からゆっくりと出ていきながら、その白蓮華をそっと撫でていく。
「んっ、ちょっと。触ってないで、これがなんなのか、おしっ……えて、よ」
「こうしてないと消えるんだよ。触りながら話すから、ゆっくり聞いてて」
コウはそう言って、固くなったままの雌蕊の中央をぎゅっと摘む。
「あっ」
体が離れても、残して来たものがあるからだろうか、奥のほうに彼の一部を感じる。胸を摘まれると、それが溜まっている場所が熱くなるのがわかった。
「これは特殊な染料を使って彫られたタトゥーだ。体温が下がると青くなって、上がると白くなる。普段は透明。だから、いつもは見えていない」
「タトゥー? あ、ここの彫り師たちだけが彫ってるっていう、ガイドしか見れないもののこと?」
言われてみれば、確かにタトゥーのようにも見える。でも、僕はこれを彫ってもらった覚えがない。これだけ大きいものであれば、きっとしばらく通わないと無理だったはずだ。
でも、僕が白藍さんに彫ってもらったのは、中学生の時のあの一度きり。義務で仕方なく施術を受けたあの時以外に、彫ってもらった記憶は無い。
「いや、僕こんなのを彫ってもらった覚えが無いよ。それに、僕はセンチネルだ。それなのに見えてるじゃないか。タトゥーはガイドにしか見えないんでしょう?」
コウの説明を聞いても納得がいかずに混乱した。それと同時に、彫り師が持つあの独特な針が、この肌の上を滑る様子を思い出す。
あの、肌にぷつりと刺さる感触、そして染料がそこに染みていく感覚。その時感じた、あの何とも言えない苦痛……。それが触覚に再現されていく。想像の域を飛び出したそれに、思わず息を詰めた。
「う、うぐっ……」
センチネルは痛みに弱い。それを想像するだけで体温が下がり、悪心がする。折角の回復を台無しにするかのように、急速にストレスがかかり始めた。
「あー悪い。大丈夫だよ、怖がらないで。……いや、でもちょうどいいのかな。ほらユキ、見てみてよ。今あんたは痛みを想像して苦痛を味わった。そうなると体温は下がっていくだろう? そうすると、ほら……」
コウに促されて、僕はもう一度鏡を見た。すると左胸にあったはずの|白蓮華《びゃくれんげ》は、姿を決していた。代わりに今それがあった場所に、同じ花が青くなって戻って来る。
「……青くなってる。それも、なんて不思議な青なんだ」
その青はとても独特な色で、自分の胸に咲くその青い花に、僕は目を奪われた。悲しみや苦しさを全て飲み込んだようなその深く濃い青色は、ストレスを感じた時の能力制御が難しくなっている僕の状態に似ている気がした。
「これは、伯林青 って言うんだ。浮世絵に使われてる青って言えばわかるだろう? この色の花が現れると、ケアが必要になるという印だ。……それにしても、痛みを思い出しただけでこんなになるなんて、センチネルも大変だな」
「あっ……」
そう言うと、コウは首筋にキスを落としながら、蓮華の雌蕊に触れる。彼の指がそこを軽く滑るだけで、青蓮華 はすぐに薄れていった。
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