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第22話 胸に咲く花3

「普段は何も見えないけれど、体温が下がり始める時……、つまりゾーンアウトしそうになると、この青蓮華(しょうれんげ)が見え始める。そして、さっきみたいにガイディングが上手くいくと、無色透明になる。さらに、ガイドの精を受けて平時よりもいい状態になった時、特にシールドが完全補強されて、五感の状態が最高に適切な状態へと保たれた時にだけ、白蓮華(びゃくれんげ)が現れる。さっきのユキは、その状態まで持っていけた。だから、白い状態でキレイに咲かせることが出来たんだ」  そう説明しながらも、彼の手は絶えず僕の肌を滑っていく。一度その状態を経験したからか、ほんの少し敏感なところを通るだけで、白い蓮華が見え隠れするようになった。  何度もそれをするうちに、僕の顔はさらに緩み、だらしなくなっていく。口からは今も絶えず短い声と息が漏れ、冷静でいようとしても、それがだんだん難しくなっていた。お腹の奥の方に渦巻く熱が外へ出たがって暴れ、凶暴な蠢きとなって腰を揺らしていく。 「あっ、あ、……っあ。まっ……って。待って。だめ、だ、め……ンんっ!」  ついに飛び出した熱と共に、白蜜が散る。それと共に、体がガックリと力を無くした。言いようのない多幸感と気だるさに包まれて、僕はコウの腕に身を投げ出すようにして預ける。彼のもう一方の手は、その白い汚れに染まっていた。それは、驚くほど濃くて多い。 「ユキ、どう? 体も心も軽くなった?」  彼はそう問いながら僕の顎を引き、愛おしそうに口付ける。ふれあいを解かれた瞬間の優しい笑顔に、思わず見惚れてしまった。 「うん。今すごくいい気分だよ……」  そう伝えると、彼は嬉しそうに眉を下げながら 「そうか。じゃあ俺はあんたのことをちゃんとケアしてあげられるんだな。良かった、役に立てて」  と言って笑ってくれる。それを見ていると、彼の事がとても愛しくなって、胸の奥がきゅっと音を立てて切なく痛んだ。 「ねえ、でも気になるんだけど……。僕、いままでずっと不調だったでしょ? でも、あの青い蓮華は見た事がなかったよ。どうして今だけ見えるの?」  それがどうしても気になってしまった。  センチネルの義務であるタトゥーは、もともとガイドにしか見る事ができないものだ。だから、それが見えなかった事に対しては、特に疑問を持った事は無かった。でも、それならなぜこの蓮華は僕に見えているのだろう。  そして、これはこのままこれから先もずっと見え続けるものなのか、それともまた見えなくなるものなのか。そして、ガイドだけでなく、センチネルにもミュートにも見えるものなのか、それが気にかかる。  誰にでも見えるのであれば、知紀にもこの存在を知られている事になるだろう。もし彼が僕を抱いた時にこの青い蓮華を胸に見ていたのであれば、そしてそれがゾーンアウトの可能性を秘めていると知ったら……。彼は一体どう思っていたのだろうか。  でも、ずっと抱くことで自分は役に立てていると思っていたのだから、少なくとも青蓮華は見えていなかったんじゃ無いだろうか。そのあたりのことを知っておきたかった。 「ああ、これは義務のタトゥーと同じで、ガイド以外の目には見えないものだよ。ただ、例外はある。ミュートにはどうやっても見ることが出来ないんだけれど、センチネルには見れる時があって、それがガイドに触れられてる時だ。ほら、こうやって……」  コウはそう言って僕の手を握り締めると、鏡を指差した。そこには、まだ薄桃に色づいた肌に、白い蓮華が咲いているのが見える。 「今は見えてるよな? でも、俺が離れると……」  僕にそれが見ていることを確認した彼は、今度はパッと手を離した。同時に体も少し距離をとる。すると、あれだけはっきり見えていた花が、忽然と姿を消してしまった。鏡の中には、快楽に浸って赤く染め上げられている僕の体が見えるばかりだ。  驚いてそこに手を触れる。触れても何も感じず、いくら摩っても何も見えることもなく、ただ痩せた胸がそこにあるだけだった。 「うそっ、こんなに何も見えなくなるの? 本当はここにあるんでしょ? コウにはみえてるんでしょう? 僕、全ての能力が最高値まで覚醒してるセンチネルなんだよ? それなのに、この目で見れないものがあるなんて……。知らなかった!」  温度で変化すると聞いたからだろうか、僕は意味もなく何も見えない胸をゴシゴシと擦っていた。そんな妙な行動をしてしまうくらいに、そこにあったはずの花がキレイに見えなくなっていたことに、激しく動揺したのだ。  これまで見え過ぎてしまって困ることは数え切れないくらいにあって、そのことで何度も苦しんだ。まさか僕に見えないものがあるなんて、考えた事も無かった。  全て見えなくなってしまえばいいのにと、そう願ったのは一度や二度ではない。がんに冒された臓器、感染症の病巣、切れかけている大きな血管。命を守るためにそれを見つける日々を過ごし、見えないものなどないと思っていた。  けれど、今それは間違いなく目の前で起きている。ついさっきまで見えていたものが、まるで存在ごと消されてしまったかのように見えなくなっていた。こんな経験は、僕にとって未知のものだ。 「これな、実は俺の師匠だった爺さんが開発した染料なんだ。他にもガイドしか見れない染料はあるんだけど、これはそれよりも精度が高い。ケアを必要としているセンチネルと同レベルのガイドにしか見えないようになってる。ユキは自分と同じレベルのガイドにあったことが無かったんだろう? だから、これまでそれを見せてあげられる人がいなかったんだよ」 「僕と同レベルのガイドしか見せられない……? じゃあ、コウは僕と同じくらいのレベルのガイドってことなの?」  僕がそう問いかけると、彼はふわりと微笑んで頷いた。そして、僕の髪に指を差し込み、ゆっくりとそれを梳いていく。 「そう、俺なら見せてやれる。俺はこう見えて、結構レベルの高いガイドだからな。半分は生まれつきだ。でも、そこから上がるために、第六感の覚醒トレーニングを吐くほどやらされたよ。だから、俺にはユキの蓮華がはっきり見えるし、俺が触れていれば共感能力(エンパス)でユキにもそれを見せることが出来る。俺が抱いてあげれば、いつでもケアもガイディングもしてやれるし、白蓮華(びゃくれんげ)を咲かせてやれるんだ」

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