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第9話
ツッコミ・オア・スルーの二択を迫られ続ける会食を終え、赤穂は疲労感を抱えて帰路についた。
相変わらずアキラと話すと疲れる。
しかし、なんだかんだと切り上げるタイミングを逃し、閉店間際まで居座ってしまった。
特に望んでそうしたわけではない。アキラの会話の間合い、食べ物や飲み物を勧めるタイミングが絶妙で、気づけば長時間化していたというだけのことだ。
あれはコミュニケーション能力が高いというより、高度な詐術だ……というのは、意地が悪い見方だろうか。
不本意ではあったが、つまりこの疲れは退屈や気まずい時間を過ごしたことによる疲れではない。
むしろ、対等に言い合ってしまった気がする。
見た目で怖がられる赤穂は、それなりに親しくなるまでは相手が遠慮してしまってよそよそしいやり取りになりがちだから、知り合い程度の間柄のアキラが気安く話しかけてくるのは少々新鮮だった。
ともあれ、精神力は大きく消費したものの、義務は果たした。
綾にも、先方に迷惑だからあまり頻繁に連絡をしないようにと釘を刺してある。
今後、少なくともプライベートでアキラと関わることはないだろう。
自宅の最寄駅の改札を出たあたりで、懐のスマートフォンが鳴動する。
当直の初音からの着信だ。ほぼ確実に、プライベートな用件の発信ではないだろう。
アキラとの会食を終えたタイミングだったことを、良かったと思うべきか遅かったと思うべきか。
少しくらいは睡眠時間が取れるといいがと思いながら、赤穂は通話ボタンをタップした。
初音からの連絡は、管轄内で少年四人による暴行事件発生、という、被害者には申し訳ないが毎度お馴染みとなりつつある内容だった。
すぐに赤穂も現場に向かい、後からやってきた駿河達と手分けをして、通報者や現行犯逮捕をした近くの交番勤務の係員などから話を聞いた。
不穏な気配を感じた近隣住民による速やかな通報と、内々にパトロールを強化していたおかげで、類似の案件では初めての現行犯逮捕となったようだ。
被害男性は金属バットで背中を殴打されていたため病院へ、少年たちは警察署へと連行する。
署へ戻ると、各種必要書類を作成し、お開きになった。取調べは明日だ。
翌日の取調べは赤穂が担当することにした。
彼らの背後にあるかもしれない何かを調べる必要がある。
今はまだ、その『何か』の輪郭すらまだ掴めていない。
闇雲に捜査するほどの人員などあるはずもないので、とにかく掴む尻尾の存在を確認したかった。
一人目の少年は、堀皮康平と名乗った。十六歳。県内の私立高校に通っていて、住んでいるのは隣の区のようだ。
事件の経緯や犯行の動機などは、やはりこれまでの事件と判で押したように同じだった。
曰く、なんとなく集まったオンライン上の知り合いと、その日の遊ぶ金欲しさに、なんとなく盛り上がってやった。被害者と面識はなく、今は反省している。
なんとなく、が多く曖昧だ。
その曖昧な部分を厳しく追求したい。しかし現行犯逮捕に加え、本人も反省しているなどと言っているので、現状では必要以上に絞ることはできなかった。
四人の話に食い違いでもあれば別だが、これまでもそれぞれの話に矛盾はなく、未成年で、補導歴すらもない。
赤穂は話を聞きつつ、目の前の少年をじっと観察する。
容姿も体格も服装も平均的な、どこにでもいそうな高校生だ。
それが、複数人で他人をリンチしておいて、怯えたり興奮している様子もない。緊張はしている様子だが、この後自分がどうなるのかはちゃんとわかっているような、妙に落ち着いた態度に違和感を覚える。
これが、アキラのような、明らかに素人とは違う気配を漂わせていれば、「これが彼の日常なんだな」と納得もするのだが……。
そう、アキラだ。
昨夜のアキラの発言の中で、引っかかったことを思い出した。
「一緒にいた人たちと、どのようにして知り合ったかを詳しく教えてもらえますか?」
赤穂は、必要だったと言い訳できる範囲でさらに詳しく話を聞くことにする。
「だから……、普通に、SNSで知り合いました」
堀皮は、ぼそぼそと答えた。赤穂はさらに追求する。
「普通に、とは?」
「リプとか……DMで連絡とって」
これは別件でも他の係員が確認しており、報告があがっていた。
実際にSNSのやりとりを見ても、ごく普通に待ち合わせ場所を決めているだけだったとのことだった。
押収した物品ならともかく、直接的に犯行と因果関係のない個人の端末を勝手に見るわけにはいかないため、改めて本人に見せてもらうことになるが、今回も前回と同じ結果だろうと赤穂は思う。
しかし、今知りたいのは、互いを知ったきっかけの方だ。
「わざわざメッセージを送ったり、会おうと思った理由はなんですか」
「え……、別に、話が合いそうとか、それくらいですけど」
「どんな話をしていましたか」
そこで堀皮は、なんでそんなことを聞くんだという顔になった。
今までのやりとり以上のことを聞かれることを想定していなかったような反応だった。
赤穂は手応えを感じつつも、無表情のまま返答を待つ。
堀皮は、にわかに不安そうになり、椅子の上で身じろぎした。
「ただの、雑談ですけど」
「例えば?」
「……好きな動画の話とか……」
「どのような動画ですか」
「別に、普通にみんな見てるようなやつですよ。……やえこちゃんねるとか」
「ヤエコチャンネル?」
鸚鵡返すと、なぜか驚いたような顔をされて、逆に戸惑う。
「知らないですか? ヤクザの事務所訪問回とかあるし、警察の人なら知ってるかと思った」
どうやら有名なようだが、そもそも赤穂には動画を見る習慣がない。
この見るからに普通の男子高校生達が、そのヤクザ事務所訪問の動画などでどんなふうに盛り上がるのだろうか。想像もつかない。
「特に全員で好きな配信者などはいますか」
「……いや……まあ、みんなそれぞれじゃないですか」
言いたくない『共通の話題』がありそうだ、という手応えを得られたところで、ひとまず取調べを終えた。
このことに関して、加賀や梅ヶ枝にも話を聞いてみたかった。
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