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第15話
「ってか、加賀さんと一緒にきたってことは、尊斗さんてマル暴だったの?」
マル暴じゃなかったの? はよくあるが、マル暴だったのかと意外そうに聞かれることは珍しい。
答えはノーだが、いちいち説明するほどのことでもないだろう。赤穂は「色々あるんだ」とはぐらかした。
余計な情報を与えてしまう前に、さっさと本題に入ることにする。
「……前端 岳 という男を知っているか」
名前については、道すがら加賀が先ほどのバーのマスターに確認した。
アキラは記憶を辿るように天井を見上げる。
「マエハシ、ガク……。フルネームは知らないけど、行きつけの店で、『ガク』って名乗ってる奴なら心当たりがあるかも。なんかちょっといけすかない感じの若い男ですか?」
「いけすかないかどうかはともかくとして、年代は二十代前半、痩せ気味の中肉中背だ」
ファッションや顔立ちなどを軽く補足すると、アキラの心当たりと特徴が一致したようだった。
「この辺りでガクって奴は他に聞いたことないし、恐らく、思い浮かべてるのと同一人物かと。そいつが何か」
「彼とは親しいのか?」
「いえ、ほんの顔見知り程度で、話とかもほとんどしたことないですね」
「………………」
赤穂は思わず、アキラの顔をまじまじと見てしまった。
前端の方は、名指しでアキラの来店についてバーテンダーに確認していたというのに。
嘘をついているのではないか。
しかし、疑惑の眼差しにも、アキラはきょとんと見つめ返してくる。
嘘をついているようには見えない。少なくとも、表面上は。
「最後に顔を見たのはいつ頃だったか覚えているか」
「いつだったかなあ……、少なくとも半年は前ですね。最近はあんまり夜遊びしないから……去年の夏頃かな」
「何か、彼について知っていることは?」
アキラは難しそうに眉を寄せると、腕組みをして唸る。
「興味がなさすぎて、顔と界隈で呼ばれてる『ガク』って名前くらいしか……。男の趣味も合わないし」
「……男の趣味?」
「うん、あいつ、俺と同じゲイだから」
さらりと出てきた情報に、赤穂は驚いた。
喜怒哀楽が表情に反映されにくい赤穂だが、目ざとくそれに気付いたアキラは、意外そうに目を丸くする。
「あれっ? 知らなかったんですか? 知ってたから俺に聞きにきたのかと思った」
「…………」
加賀は薄々気づいていたのだろうか。
赤穂に言わなかったのは、予断を避けるためか、それともただ言うのを忘れただけか。
どうにも後者のような気がしてならない。
赤穂は咳払いをし、ノーコメントで話を続けることにした。
「興味はないが、男の趣味は知っている、と?」
「や、それは連れでわかるじゃないですか。明らかに好み違うなって」
連れが同性の場合、ただの友人なのか恋愛対象なのか、見ただけで判別できるものなのだろうか。
「他に知っていることは? ……知っていることじゃなくても、彼の印象とか、なんでもいい」
「んー……、身なりは小綺麗だし、金回りは良さそうですよね。チヤホヤされるのが好きで、取り巻きが多い。あと、男の趣味は合わないけど、バーの趣味は近かったのかも。俺がまだ夜遊び三昧だった頃は、複数の店で顔見かけましたから」
「前端を見かけたバーの名前を、聞いてもいいか。思い出せるだけ教えてほしい」
「いいですよ。場所とかもわかった方がいいですよね。後で店のURL送っときます」
「……助かる」
「ゆっても、この辺にある若者が行きやすいバーなんて限られてるので、どれくらい参考になるかはわかんないですけど」
確かに、この辺りは都心ほど遊ぶ場所が豊富なわけではない。
アキラが行くような店は、前端だけではなく他の若者もみんな行っているだろう、ということだ。
毎日のように遊んでいれば、どこの店に行っても、同じような顔を見かけるのだろう。
「……どうして、最近は夜遊びしなくなったんだ」
加賀の話からも、アキラは少年時代からなかなかの素行だったことが窺える。
二十歳を過ぎてからは、大手を振って夜遊びできるようになったはずではないか。
「それは、この店で働き始めたからですね。バーに行ってたような時間には大抵ここにいるし、タダ酒飲みながらお客様とダラダラ話もできるので、プライベートでまで飲みに行きたいってのが減りました」
アキラの答えは、あっさりとしていた。
それはそうかもしれない。仕事とプライベートは別のような気がするが、この男ならばそこを分けずとも楽しくやれてしまいそうな気がする。
しかし、と赤穂は店内を見回した。
「普段は繁盛しているのか?」
赤穂たちが来た時には客がいなかったようだし、そのまま店じまいをしてしまうような適当さだ。
夜遊び三昧をやめて打ち込むほど、やるべき仕事が存在しているのだろうか。
「う〜ん、客は日に何人も来ないですね。来ても大体ハクの指名客で」
「それでよく生活できているな」
こういった店では、客がつかないと給与にも結びつかないのでは。
赤穂の疑問は、しかし愚問のようだった。
「うちは固定給に成果報酬足していく感じの給与形態だから、客がゼロでもがっつり給料出ます」
「客が来なくても給料が出るとは、金の出所が気になるところだが……」
きっと、真っ黒だという後ろ側から出ているのだろう。
アキラは自分の危うい立ち位置を理解しているのかいないのか、「ほんとそれ」と呑気に笑っている。
「オーナーは金のなる木を育ててるんですよ」
まったく笑えない冗談だ。
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