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第17話

 翌日、梅ヶ枝に昨夜加賀と調べてきたことを話した。  前端について前歴を照会すると、一件、喧嘩での補導歴があるのみだった。  補導の場合、通常二十歳でデータは破棄されるが、相手の怪我が酷かったため、今でもデータが残っていたようだ。 「相手は三か所骨折か……。とはいえ、それ以降は何もないってことは、喧嘩は卒業したってことかな」  生活安全課の梅ヶ枝も、前端に関しては特に何も知らないらしい。  一方、アキラが送ってきた前端を見かけたという店を確認すると、加賀が調べていた被害者の目撃情報とも重なっていた。  前端が被害者と何らかの関係がある可能性が高まると同時に、その前端を同じ場所で見かけていたアキラにも同じ可能性があることになる。 「碧井アキラか……。加賀さんは碧井と旧知なんですよね? 印象は?」 「怪しくない部分を探す方が難しいような奴だが、あいつがガキ扇動してオヤジ狩りさせるような動機を一個も思いつけねえんだよなあ」 「赤穂も会ったんだよな」  梅ヶ枝に水を向けられ、赤穂は何とか平静を保った。  二人にはもともと知り合いであることを言っていないので、アキラについて聞かれると心臓に悪い。 「印象は加賀さんと同じくですが、掴みどころのない相手なので、こちらが思いもよらないような動機の可能性も考えられます」 「愉快犯ってこと? 前端の目撃場所の提供は、自分から注意を逸らすため、とか?」 「……そうですね……」  その場合、アキラ自身は前端と知り合いであることを否定している以上、他の目撃場所など黙っていた方が怪しまれなかったような気もする。  梅ヶ枝の考察にぴんと来なかったのは加賀も同じのようで、眉を寄せて唸った。 「俺はやっぱ前端の方が気になるな」 「『未成年略取』ですか。ただまあ、被害者全員人相が悪いから、彼らについて刑事が嗅ぎまわっていたら、そんな感想が出る可能性もありますかね」 「確かに、こいつら人相悪いっつーか、被害者ってより犯人寄りの顔だよな」  加賀が豪快に笑った。  赤穂も改めて被害者の写真を見るが、どれもなかなか険しい顔で写っている。  内心同意していると、梅ヶ枝が何だかかわいそうなものを見るような目で言った。 「いや……、彼らもたぶん、二人には言われたくないと思っているかと」  加賀の笑いが止まる。 「……悪かったな悪人面で」 「…………」  ……人の容姿のことをあれこれ言うのは良くない。  改めてそう思った。 「梅ヶ枝、ちょっといいか」  話の途中で課長の境が現れ、梅ヶ枝を連れて行ってしまった。  その背中を見送りながら、加賀がぼやく。 「また助っ人か? これ以上人を取られると無人警察署になるぞ」 「流石にそこまでは……。まあ、どこも万年人手不足だから仕方がないですね」  近隣の警察署がそれぞれ管内に繁華街を抱えていて、猫の手も借りたい、が常態化しているのは赤穂達もよくわかっている。  何なら加賀は数年前までは助っ人を求める側だったので、苦しい内情は赤穂以上に理解しているだろう。  警察は常に人手不足なので、何か起これば少しでも余裕のある署から人を借りるしかない。  ……とはいえ、赤穂のいる蔵木署が特別に暇だということはなく、それぞれ案件を抱える係員たちをやりくりして人員を捻出するのは中々に大変だ。  ちなみに、強行犯係は既にほぼ全員、助っ人として駆り出されている。 「……その二人、洗いましょうか?」  強行犯係で一人(正確には赤穂と二人だが)残っていた初音が、自席からそう声をかけてきた。  初音の階級は巡査部長で、非常に有能な刑事だ。細身で眼光が鋭いため冷徹な印象を受けるが、気になることがあればとことん追求するような熱いところもある。  勤務態度はドがつく真面目で、その厳格さに加え目つきが鋭いため、同僚から怖がられたりしているようなところに、赤穂は非常に勝手にちょっぴり親近感を感じていた。  そんな仕事熱心な初音のことだ、係長が雁首揃えてあれこれ言っているので、捜査を申し出てくれたのだろう。 「その二人から、何か出てきそうなんですよね」 「いや……、碧井アキラの方は下手にマークすると上から圧力がかかる可能性があるから、お勧めしねえな」  加賀が苦々し気に首を振る。  捜査をすると上から圧力がかかるということは、アキラの勤務先の経営者のバック……黒神会が警察内部に容易に干渉できるということだ。  真っ黒という加賀の言葉に誇張表現はないらしい。 「では、前端は?」  初音が食い下がってきたので、さてどうするかと考えていると、管轄内のマンションで変死体が発見されたとの無線が流れた。  小さな警察署で殺人事件に出くわすことは稀だが、死体に関わることは多い。  火事や水難事故、そして心不全などの突然死。医療に繋がらない場所で起こった死は、全て警察に通報される。通報があれば赴き、事件性の有無を確認しなくてはならない。 「……まずはこっちだな」 「……はい」  死因は病死だったため、変死体についてはその日のうちにカタがついたが、その後も何かと小さな案件が立て続けに舞い込んできて、それぞれの事件への対応に追われた。  それから一週間。連日のように続いていたリンチ事件も、何故かぴたりと止まっている。  真相は気になるが、これ以上の捜査は難しいかと思っていたところに、アキラから連絡がきた。 「前端のこと、いいって言われたけど色々情報集まったので、よかったらシェアしますけどどうですか」

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