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第22話
閑静な住宅街にあるアパートで見つかった遺体は、いわゆる孤独死で、現場の検証や近隣の住民への聞き込みを行ったところ事件性も認められなかった。
誰にも看取られずに亡くなったのは悲しいことで、よかったなどと言ったら不謹慎なのはわかっているが、これで事件性があるなどということになると、捜査本部ができて不眠不休の日々が始まってしまうので、事件性がなかったことは正直ありがたい。
それにしても、立て続けだ。真夏は熱中症、真冬はヒートショックなどでも突然死が増えがちなので、一人暮らしをしている人は、特に注意が必要である。
なにしろ、警察の検証が入ると、死因の解明のため遺体を検分された上、全裸のまま写真におさめられるのだ。もちろん、ほぼ全員の警察官が、遺体への敬意などをもって真摯に、そして老若男女どのような人物の遺体だろうと何も考えず黙々と作業にあたっている。
しかし、その現場を知っていれば尚更「できれば検証されたくないな」と思ってしまうのだ。
署に戻り報告書を作成していると、同じく休日出勤となったのか、加賀がやって来た。
「そっちも休日出勤か。お疲れさん」
「早めに片付きそうで、助かりました」
「そりゃよかった。その報告書が片付いてからでいいが、少し話せるか」
まだもう少しかかると言うと、加賀はやることはいくらでもあるから大丈夫だと苦笑した。
手持ちの案件が綺麗に片付いている刑事はいないのだ。
しかしちょうどよかった。赤穂からも、今朝リツキに会って聞いた話を共有できる。
少しペースアップして仕上げた報告書を課長に託すと、赤穂は加賀の机に向かった。
「お待たせしました」
「おう、悪いな休みの日なのに」
それは、加賀も同じではないだろうか。
加賀は、件の被害者の写真をプリントアウトしたものを自分の机の上に並べた。
「この間、『SHAKE THE FAKE』に行った時、碧井アキラにこいつらの面通ししたか?」
『SHAKE THE FAKE』というのは、アキラの勤務先の高級クラブの名前だ。
まさに赤穂も早めに確認しなくてはと思っていた事柄で、これまで失念していた自分に舌打ちしそうになる。
先程、なんとか時間を作って聞いておけばよかった。
「……すみません。あの時は、前端の話に終始してしまって」
「ま、あん時は前端のことを聞きに行ったんだしな」
「碧井アキラと、被害者が何か?」
「実はな、こいつら全員、過去に碧井アキラの恋人だったって証言が出てきた」
「……………………は?」
人生で、これほど目が丸くなったことはなかったかもしれない。
鏡で見て比べたわけではないからわからないが、とにかくそう感じるくらいに面食らった。
石像のようにガチリと硬直した赤穂に、加賀はわかるぞ、というように頷く。
「色々理解できねえ部分はあるかもしれないが、ガイシャ本人にも確認済みだ」
「……………………」
「大丈夫か?」
「いえ、……はい。少し、意表を突かれて」
つい、目つきの悪い男たちの写真をまじまじと見てしまう。
これが、アキラと?
「こいつら、碧井アキラと比べてとびきり美形でもないし、人相が悪いところくらいしか共通点ねえしなあ。信じられない気持ちはわかるぜ」
加賀は偶然かエスパーか、赤穂の心の声に応えるようなことを言うと、腕組みして唸った。
驚愕が勝って、どう考えていいかわからない。
しかし、一つ腑に落ちることがあった。
「……実は今朝、前端の元恋人に話を聞いてきたのですが……」
赤穂は、リツキから聞いた話を加賀に伝えた。
被害者のことはアキラに聞け、というのは、このことだったのだ。
短い報告を聞き終えると、加賀は「確定だな」と確信を深める。
「リツキって奴は、間違いなくこいつらがアキラの元カレだってのを知ってたんだな。こっちの情報も、バーの常連客から聞いた話だ」
複数人の証言があるということは、デマの類ではなさそうだ。
……ということは。
「碧井アキラが事件に関わっている線は、かなり濃厚になりますね」
「どんなふうに絡んでくるかはまだわからんが、無関係ってことはなさそうだな」
自分から言っておいてなんだが、本当にそうだろうか。
何らかの形で自発的に関わっていたとしたら、なぜ捜査に協力するのだろう。
攪乱のため?
しかし既に関与を疑われているわけで、それほど効果を上げているようには思えない。
あの男がこちらを欺こうと思ったら、もっとクレバーにやる気がする。
この件に限って言えば、関わっているとしても、巻き込まれているだけなのでは。
ぼんやりと浮かんできた考えを、しかし赤穂は打ち消した。
アキラの善意を、個人的には信じていいのではないかと思う。
だが、捜査は別だ。先入観を捨て、事実を追求しなくてはならない。
今のところ、アキラの怪しさを否定するような情報はないのだから。
「本人にも確認したいですね」
「そうだな……」
加賀は一瞬考えたのち、写真をまとめて懐に入れた。
「こっちはうちで確認するから、お前さんはそのリツキって奴に改めて聞いてくれるか?」
先日のように二人で行ってもいいのでは?
そんな言葉が喉元まで出掛かったが、それを呑み込んで頷く。
「……わかりました」
もしかして加賀は、赤穂とアキラが(不本意ながら)プライベートで既に知り合いだったことに気付いているのでは。
ひやりとしたが、加賀に直接確認しない限り、確かめる術はない。
一抹の不安を抱えたまま、その日は解散となった。
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