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第23話
加賀と別れた後、署から自宅までの道中の記憶はほぼない。
綾からの無事帰宅したというメッセージと、アキラからの無事に最寄り駅まで送り届けたというメッセージをかろうじて確認した後は、気付けば自宅のダイニングテーブルで、人相の悪い男達の画像とにらめっこをしていた。
もたらされた情報に、脳の処理能力が追い付いていない。
否、被害者の男性たちがアキラの元恋人だとわかった、ということだけなのだが、赤穂としてはただ単純に「指示役の可能性が出てきたな」と思うだけで済ませられないこれまでのあれやこれやがある。
『尊斗さん、めっちゃ俺のタイプなんだよね』
『尊斗さんの頼みならなんでも聞くから、いつでも頼ってください』
こういった過去の発言については、最初こそ怯んだものの、今では警察官である赤穂に対して、立場的に後ろ暗いところがありそうなアキラなりの攪乱というか、相手のペースを乱す話術の一種のようなものだと勝手に納得しかけていた。
そんなところへもってきて、この信憑性はいらなかった、と、赤穂は頭を抱える。
本気かどうかはともかく、好みのタイプだから親切にしてくれている、というのは真実らしい。
あまり、実感したくなかったが。
被害者の顔が自分と似ているとは思わないが、しかし、人相の悪さという一点においては共通点があり、むしろ全員そこしかないあたりに『好みのタイプ』が浮き彫りになっているような気がする。
あの顔なら、相手など選び放題だろうに、どうしてそんなことになってしまったのか。
証言が取れるくらい恋人だったことを周囲に認知されていたのを鑑みるに、一夜の相手とかではなく、どの人物ともそれなりに長く付き合っていたのだろう。
改めて、被害者の情報を頭の中に並べてみる。
年齢は全員四十代以上で、アキラどころか赤穂よりも年上だ。
親子ほどの歳の差だが、付き合っていた頃は今よりは若かったとか……。
いやいや、彼らを三十代にすると、アキラは未成年だ。犯罪である。
学生同士の恋ならともかく、彼らの場合はさすがに、成人してから付き合っていたと思いたい。
「……未成年?」
何か引っかかり、つい、声が出た。
この単語と、目つきの悪い被害者達とを結びつけるような話を、聞いた気がする。
前端だ。未成年略取。前端は、彼らの画像を見てそう言ったのだ。
加賀は、バーなどの聞き込みで、アキラと被害者が付き合っていたことの裏をとったと言っていた。
アキラと行動範囲が近そうな前端も、当然アキラの人間関係を知っていたはずだ。
アキラを介して、被害者達に対し、個人的に何らかのネガティブな感情を抱いていた可能性があるかもしれない。
……考えすぎだろうか。
無関係の事象をなんとなく説明のつくように結びつけていくと、気付かぬうちに陰謀論じみたトンデモ推理になっていることがある。
余談は禁物だ。
赤穂は思考を中断し、一呼吸置いてから、そもそも前端とアキラが一連の事件に関わっているか、というところから考えてみることにした。
アキラは被害者との関係。前端は加害者との関係で、それぞれ疑わしいところがある。
仮に二人を指示役と疑う場合の動機について、被害者はアキラの元恋人ということで、怨恨と考えるのは、捜査の定石だろう。
前端の方は、前提としてアキラとは知り合いで、恐らく、だがほぼ確実に被害者がアキラと付き合っていたことを知っていた。
そして、そう、前端の元恋人のリツキの顔だ。加齢による『若者の顔がみんな同じに見える現象』の可能性も捨てきれないとはいえ、アキラと少し面差しが似ている。
しかも前端は、今は不明だが以前は好みの顔でなければ傍に置かなかったくらい容姿にこだわりがある性格なのだ。
初めて会った日、彼はアキラを探していた。
アキラに対し、何か強い感情を抱いている可能性は十分にある。
前端との関係に関しては、アキラ側の言動にも腑に落ちない部分があった。
最初、前端のことを顔と名前程度しか知らないと言っていたことだ。
実際は、友人ではないにしても、相手のことをかなりよく知っているように感じた。
親しくないふりを装ったということで、共犯の可能性も考えられるか。
動機の部分はアキラで、加害者の少年たちを集め指示したのが前端。
恨みを抱いているのが自分ではなかったため、前端からは気軽に未成年略取などという言葉が出てきたのかもしれない。
こう考えると、筋は通っているように感じる。
ただ……、アキラを動機とすると、赤穂としてはどうしても違和感を覚えてしまうのだ。
いや、決して彼が自分に好意的だからではなく。
アキラならば、相手に恨みがあれば直接仕返しをするのではないだろうか。
実際、被害者に重症者はなく、ほぼ失敗している例もある。
誰かに依頼するにしても、彼ならもっと腕の経つ知り合いがいくらでもいそうなものだ。
だったら、前端の方に、動機はあるだろうか。
その場合は、彼がアキラに何らかの強い感情を抱いていることになるが……。
この辺りが限界だった。考えが行き詰ると、思考が途切れる。
ふと端末の表示を見れば、もう日付が変わりそうな時刻だった。
署を出たのがまだ夕方だったから、一体どれだけ考え込んでいたのか。
昼間も綾に呆れられたばかりで、何の言い訳もできない。
現実が戻ってくると空腹を感じ、夕食をとり損ねたなと思う。帰りに弁当でも買ってくればよかった。
一食くらい抜いても死にはしないが、突然事件が起きて食事もままならないことになることはままある。
刑事は、食べられるときに食べておくものだ。
仕方がない。コンビニで弁当でも買うことにし、赤穂は帰宅後ハンガーにかけることすら忘れ、椅子に引っ掛けてあっただけのコートを手に取った。
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