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第24話

 深夜の住宅街は、薄気味悪さを感じるくらいに静まり返っていた。  駅前のコンビニまでのそう長くもない道中でも、普段であれば少なくとも一人か二人くらいは人とすれ違うものだが、今夜は珍しくそんなこともない。  常日頃は人通りよりも多い車通りもはたりと途絶えていて、まるで、そっくり同じ景色の異界に迷い込んでしまったような気分だ。  ……などと考えていた矢先、恐らく高校生くらいの少年たちが死角から姿を現して、世界にたった一人、なんて幼稚な妄想をしてしまったことが少々恥ずかしくなった。  どうやら駅前のロータリー付近に植えられた木々に遮られて、その姿が見えなかっただけのようだ。  それにしても、未成年がうろつくには少し遅い時間ではないか。暗くてよく見えないが、これから夜の街に繰り出しそうな派手な格好をしてはいないようだ。  職業病か、つい気になって彼らの様子を更に窺おうとしたところ、異変に気付いた。  距離にして五メートルほど離れた場所にいる少年たちは、赤穂の方を見て何やら話している。  視線をそらしてそそくさと立ち去られることこそあれ、あからさまに指を差されるようなことは少ない。  しかも、彼らの手には、辺りが暗くても見間違いようがない、金属バットが握られていた。 「(……まさか……)」  そんなまさか、だ。 「絶対あいつだって」 「でも、まだ連絡入ってないじゃん」  漏れ聞こえてきた会話。  こちらを見て会話しているということは、やはり、彼らのターゲットは赤穂なのか。  未だ状況が腑に落ちていないが、しかしこのまま見逃すこともできない。 「君たち、ちょっと」 「うわ、話しかけてきた」 「もうやるしかなくね?」  声をかけると、少年たちは不慣れな動作でバットを構える。  さすがに赤穂も身構え、相手の出方をうかがった。  連続と枕詞につけるべきか、未だ確証はないが、別件というにはこれまでの連続襲撃事件と類似点が多いので、本件も同じ事件と見るべきだ。  これまでの供述によると、どの事件も一発目は不意打ちを狙ったということだった。  聞くまでもなく、こうして正面から相対することは、彼らにとって計算外の事態に違いない。  赤穂としても、体格自体は既に大人に近い男性が四人同時に襲い掛かってきたら、対処しきれる自信はなかった。  術科の訓練はしているが、激務の合間の短い鍛錬で拳法の達人になれるわけもない。  今からでも一旦逃走して通報するべきかどうか考え始めた赤穂の耳に、「……やんなきゃ、俺たち……」という、己に言い聞かせるような少年の独語が届いた。  その意味を考える間もなく、サイレンの音が耳に飛び込んでくる。  同時に全員がはっと辺りを見回した。 「君たち、そこで何をしている」 「やっべ……」 「行こう」  車両の到着よりも早く到着したものがいたのか、声をかけられて、少年たちはばたばたと逃げて行った。  やがてサイレンの音が大きくなり、止まった。わかっていたが、それらしい車両は見えない。  赤穂はその場から動かず、声の聞こえてきた方をじっと見つめていた。 「…………」  しばし待ってみたが、声の主が顔を出す様子はない。  痺れを切らし、自分から声をかけた。 「どうした、出てこないのか?」  躊躇うような間を挟み、駅前の駐輪場の管理人室の向こうから姿を現したのは、案の定アキラだった。  サイレンの音の発信源と思しきスマホを懐にしまいながら、軽い調子で近づいてくる。 「や~、バレてました?」 「声でな」  つい数時間前に聞いた声だ。それと少年たちは誤魔化せたかもしれないが、本職の警察官である赤穂からすれば、サイレンや声のかけ方など、違和感を覚える点も多々あった。  こんなことを言えば、「声だけで俺だってわかっちゃうなんて愛では!?」とかなんとか迫ってくるかもしれないと身構えていたのに、アキラは「さすがは現役刑事さん」と控えめに笑っただけだった。  なんだか、様子がおかしい。  何を考えているのかと表情を覗き込もうとすると、アキラはそれを拒むように、にっこりと綺麗な笑顔を自分の顔面に貼り付けた。 「ええと、何で俺がここにいるのかとか、いろいろ気になることはあるかと思いますが、あいつらが戻ってくる可能性もあるし、すぐにマンションに戻った方がいいと思いますよ。ああ、気になりそうなことは、後で情報共有します」  彼らが戻ってくるのであれば、改めて話を聞きたい気持ちはなくもないが、どうせ他の事件の加害者と同じことしか言わないだろう。  それよりアキラだ。  加賀の話を聞いて、こちらこそアキラがどんな立場にいるか悩んでいたというのに、ここに来て妙に奥歯にものの挟まったような一歩引いた態度はどういうことか。  昼間は赤穂が託した娘を無事に送り届けてくれて、今はバットで病院送りにされそうなところを救ってくれたのだから、礼の一つも言うべきところだというのはわかっている。  だが、それは後だ。  刑事の勘というやつだろうか。  ありがとう、できれいに別れてしまった場合、望んだ情報は二度と手に入れられない。そんな気がした。 「コンビニに行くところなんだ」  忠告を突っぱねた赤穂を、アキラはちょっと困ったような顔で見つめる。 「そ、それは緊急の用件で……?」 「話は買い物の後直接聞く。ビールの一本くらいおごってやるからお前も一緒に来い」 「えぇ……」  強引に同行させることを決めてしまうと、赤穂は深夜でも煌々と光を放つコンビニに向けて歩き出した。

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