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第25話

 コンビニでアキラは「酒は仕事中に飲んだから」と無糖炭酸水を選んだ。  以前あまり客も来ないようなことを言っていたが、今夜は来たらしい。  おごってやると言ったことで、気を遣ったわけではないと思う。たぶん。  赤穂はビールにした。この後アキラと話をするのに、アルコールの力が必要な気がしたからだ。  弁当は時間帯が悪かったのかほぼ選ぶ余地がなく、強制的に幕の内弁当になった。  言葉少なに自宅へ戻ると、いつぞや鍋を囲んだダイニングテーブルで向かい合う。  ペットボトルを開けるその表情を窺えば、アキラはわざとらしく目を逸らした。 「それで? 先程言っていた『後で連絡しようと思っていた』内容を話してもらおうか」 「う~ん、取調べ感マックス」 「事件関係者として、できる限り詳しいお話を聞かせてください」  軽口に乗ってやると、アキラは諦めたように笑い、ビニール袋に入ったままの弁当を赤穂の方へ寄せる。 「じゃあゆるゆる話すので、尊斗さんは弁当食べながら聞いてください」  食事は話の後で、と考えていたが、いつ職場から連絡があるかわからない。  ここは素直に食べながら聞くことにした。 「綾ちゃんを送って行った後、リツキに電話したんです。尊斗さんに色々話してくれたみたいだったんで、礼でも言っとくかと思って。そうしたら、前端のことだけじゃなくて、俺の知り合いについて聞かれたって言われて。……驚きました」 「……どうやら、元恋人、という証言があるようだが」 「リツキは言わなかったって言ってたけど、さすがにもう知ってましたか」  赤穂も先程加賀から聞いたばかりだが、以前から知っていたかのように頷いておく。  こういうことは、ハッタリが大切だ。 「襲われたのが全員俺の元恋人ってことになると、俺と無関係とは思えなくて、情報屋的な知り合いに調べてもらったんですよ。そしたら、この辺りで連続暴行事件が起きてて、しかも被害者全員俺の元カレっていう回答で本日二度目の驚き」  被害が軽微の上、加害者が未成年のため報道もほとんどされていないというのに、その『情報屋的な知り合い』とやらはどうやって事件について調べたのだろうか。調べる速度も速すぎるように感じるし、甚だ不穏だ。 「一晩で振られたとかは除外して、それなりの期間付き合った相手がみんな襲撃されたみたいでした。それなのにまた新たに事件が起こりそうな気配だってことで、尊斗さんに何かあったらどうしようと、急いでご自宅までやってきた次第で」 「待て、情報量が多すぎて詳しく聞きたいことしかないが、そもそも付き合ってない」  お前の顔面でも一晩で振られるようなことがあるのか一体何をしたんだとか、新たに事件が起こりそうな気配とは何だとか聞きたいことはたくさんありつつ、ひとまず一番おかしいところにつっこむ。  何故、当たり前のように襲撃対象になりうると思ったのか。 「ないですけど、今日も一緒にデートスポットに行っちゃったし、前端に認識されてる可能性あるなって。実際襲撃もあったし」  確かに、出会ってからこのかた、不本意ながら行動を共にする機会は多かった。  では先程の襲撃は、赤穂がアキラの恋人だと思われているということなのか。  にわかに信じがたいが、先程被害者たちの画像を見ながら、アキラの好みの傾向について、自分が含まれているかもしれないところに納得してしまったところだ。  否定できる材料は何もなかった。 「……つまり、お前は事件の指示役は前端だと思っていて、前端がお前に近しい人間を選んで襲わせていると考えているのか?」 「俺は単なる口実の可能性もありますけど」 「ただの口実にしては、随分とピンポイントな人選じゃないか」 「…………。まあ、そうですね」  相槌に不自然な間があったのを、赤穂は見逃さない。 「前端とは、ただの顔見知りじゃないな?」 「あー、いや、俺は本当にそう思ってるんだけど。あっちは、なんか俺の顔が好きらしくて」  問い詰めると、アキラは渋々といった様子で白状した。  どうやら、前端から一方的に言い寄られているような状況らしい。 「……何で最初にそう言わなかったんだ」 「ええ……、だって言いたくなかったから」 「何とも思っていないなら隠す必要はないと思うが……」  聞き込みに来た刑事に隠し事をすると面倒なことになりかねないくらいのことは、アキラならわかりそうなものだ。  隠すほどの何もないのではと不思議に思っていると、アキラは苦悩するようにぐっと目を瞑ると、ぼそっと呟く。 「……その鈍さをこそ愛しているんですけどねえ」 「何?」  意味を測りかねて聞き返せば、アキラはくわっと目を見開き、身を乗り出してきた。 「好きな人にそういう話をしたくないのはフツーじゃないですか」 「???」 「いや、だから……あわよくば好きになってくれたらいいなーって思ってる相手に、ろくでもない奴からちょっかいかけられてる話をわざわざしたくはなかったというか……!」  そこまで言われて、ようやく何となく察した。  警察にではなく、赤穂に知られたくなかったということか。  微妙な空気が流れ、咳払いで誤魔化す。 「繰り返しになるが、別にお前自身が何とも思っていないなら気にする必要はないと思うぞ」 「そうですかね~、や、でもあんまノンケの人に聞かせたい話じゃないなって」  ほぼ初対面の時点で「好みのタイプ」だの言ってきたのに何を今更と思ったが、そこは言わずにおいた。  話題を変えよう。  これ以上この話を深堀りしてはいけない気がする。

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