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第26話
「それで……、新たな事件が起こりそうな気配というのは?」
聞けば、アキラは懐から端末を取り出して、何やら操作をしながら逆に聞き返してきた。
「警察の方では、あいつのアカウント特定してますか?」
「何のアカウントだ」
「Vで活動してるやつです」
「V? ……バーチャルオレチューバーのVか?」
バーチャルオレチューバーとは、オレチューブという動画共有プラットフォームなどで、CGで作られたアバターで配信をする配信者のことだ。
前端は自分の容姿に自信のあるタイプに見えたので、アバターで配信というのは少し意外な気がする。
赤穂のリアクションから初耳だったことが伝わったのだろう。アキラは『これです』と配信動画を見せながら、前端の手口について話した。
まず、若者が多く利用しているSNSに動画を載せたり、雑談配信などを行う。
当たり障りのない日々の悩みなどで共感を得る。
コメントなどから近場に住んでいる若者が見つかると、個別チャットやトークルームに誘う。
そして、『ちょっとしたリアルゲームにチャレンジしないか』などと言って、直接会って襲撃の指示をしていたのだろうということだ。
前端のアバターは、派手な容姿の本人とは対照的な、繊細そうな趣のある線の細い美青年だった。
女性に人気はありそうだが、果たしてこれは高校生男子に好まれるようなキャラクターだろうか。
「そんなにピンポイントにこの近隣に住む少年たちが、このチャンネルを視聴するのか?」
「雑談中に地元の話を振って、知ってる~って奴らからピックアップするみたいですね。いいな~なんてコメントがつくと調子に乗っちゃって特定できそうなこと色々言ってくれるみたいで。誘導用の、サクラの視聴者もいるはず」
アキラは今度は音声データの再生ボタンを押した。
『うん、そう、この間も距離感バグってる大人にちょっとメンタルやられちゃってさ。あ、わかってくれる? なんかもうちょっとこっちの文化に合わせろよって思うよね。そうそれ。っても、相手も悪意があってやってるわけじゃないとさー、言えなくて余計にストレスたまるじゃん。そういう時おすすめのストレス解消法あるんだけど、試してみない? 人生経験にもなって、しかも社会貢献になるやつ。聞くだけ聞く?』
ほぼ相槌のみだが、相手の声が入っているため個別の会話だろう。
実際に聴いてみても、今一つぴんと来ない。
「こんな雑談から、見知らぬ他人をバットで殴ろうという気になるだろうか」
「それなりに人気の配信者に、気が合いそうだからトークルームで話さないか、なんて言われた時点で嬉しくて冷静さを失ってるとかもあるかも」
「そんなものか。理解に苦しむな……」
「あいつ、あんまり頭もよくなさそうだし、知る限り人柄もクズだけど、アホな言動でも謎に本気なんですよね。自己肯定感高すぎっていうか。世間知らずな子たちはそこにカリスマ的なものを感じてしまうらしく、リアルでもシンパが多いんです。そんな古くからのシンパが、地元の若者にこのチャンネルのことをせっせと広めてるんじゃないですかね」
加害者の少年たちの顔を思い出す。
自分の言葉で話しているとは思えない、希薄な証言の数々。
あれは恐らく捕まった時のマニュアルで、指示に素直に従う、人の言葉を鵜吞みにしやすい少年がターゲットにされているのだろう。
全て非常に貴重な情報で、共有に感謝しなければならないところだが、捨て置けない問題があった。
「一つ聞きたいんだが、これは個人間のやり取りなんだな? 何故データがお前の手元に……」
「あー、これは情報収集を頼んだ相手が張り切りすぎた結果……かな?」
「一体どんな知り合いなんだ」
「オーナー寄りの」
聞くまでもないことだったが、やはり聞いてはいけないことだった。
赤穂は「いい、わかった」と言葉を遮り、ビールをあおった。
これは仕事ではなく、世間話ということにしよう。
「どちらにしてもこれだけで罪を問うことはできないし、聞かなかったことにしておく」
「ですよね~。直近で個別に声かけてる音声データが見つかったから、また事件が起こりそうだと思ったってことで大体説明も済んだと思うし、そろそろ俺は失礼しますね。あ、前端のことは、俺がなんとかしとくのでご安心を」
不穏な発言をしながら急に切り上げ始めたアキラを慌てて止める。
「待て。何とかしとくっていうのはなんだ」
「えっと、改心するように説得をしよっかなーって」
「……何か、事件的なことが起こったりしないだろうな?」
「心配ないない。尊斗さんは日々犯罪者と闘いすぎて心が疲れてるから、そんな風に考えちゃうんでしょう」
白々しい笑みを刷いた綺麗な顔に、その言葉を信用させるような誠実さは微塵もない。
赤穂はぐっと身を乗り出した。
「奴が指示したという決定的な証拠はないんだろう」
「それは本人に聞いてみればはっきりするでしょ。大丈夫、穏便に話し合いますから」
「私も行こう」
「は?」
申し出に、アキラは一瞬ぽかんと口を開けた。
すぐに我に返り、ぶんぶんと首を振る。
「いやいや、何を仰っちゃってるんですか」
「勘違いするな。お前に便乗して、関係者に聞き込みに行くだけだ」
「そんな、危険が危ないですから!」
それは重複表現では? とか、危険はこちらのセリフなんだが、とか真っ当なツッコミを入れるべきかどうか一瞬悩んだが、アキラのペースに巻き込まれるだけのような気がして、やめておいた。
アキラは必死に止めようとしているようだが、赤穂も引く気はなかった。
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