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第27話

「はっ……。あー、ゴホン。じゃあ、カチコミするときは声かけますから! 今日はもう遅いし、俺はお家に帰ります」  考えを変えない赤穂に対し、後日改めて、という形にすることで、この場を収めようと思ったらしい。  そうは問屋が卸さない。「それじゃ」と踵を返すアキラの腕をがっしり掴んで、物理的に引き留める。 「行かせると思うか」 「……や、そもそもついてきて何をされるおつもりで? さっき尊斗さん自身も言ってましたけど、前端は身の回りに動画やメッセージのやり取りなんかの決定的な証拠になるようなものは残してないだろうし、逮捕はできないと思いますよ」 「それはわかっている。が、お前が行けば確実に何かが起こるとわかっていながら、見逃せるわけないだろう」 「えぇ……さっき危ない目に遭ったばっかりなんだから、このままここで大人しくしていて欲しいんですけど……」 「その場で危害を加えられるようなら、正規の手順で通報すればいいだけだ。違うか?」 「くっ……頑なすぎる」  アキラはぎゅっと眉を寄せ、苦悶の表情で首を振った。  いつもと変わらないようでいて、やけに余裕のない様子に違和感を覚える。  普段のアキラであれば、適当なことを言って赤穂を煙に巻いてさっさと出て行ってしまいそうなのに、どうにもらしくない。  それは、先程夜道で再会してからずっと感じていることだ。  ここはとにかく会話を続けて、胸の裡を探るべきと判断する。 「それに、お前が前端と共犯という疑いもある」 「へっ……?」 「被害者と近しい間柄のものは、関与していない確認が取れるまでは参考人扱いだ」 「……ああ……そういう」  アキラは、ほんの一瞬だけ傷ついた顔をした。  疑われていることが悲しいのか、それとはまた別の理由があるのか。  赤穂自身はもちろん、アキラと前端が共犯だとする線はほぼないと考えている。  アキラの人柄が信頼できる……というよりも、やはりこの男であれば、殴りたい相手は直接殴りに行く気がするのだ。  もちろん、敢えてそれを説明するつもりはないが。 「……だとしたら、ますます一緒に来たら危ないでしょ」  アキラの内心について考えこんでいた赤穂は、急激な接近に気付けなかった。 「……、っ……!?」  突然、目の前に影が差して、唇に柔らかいものが触れる。  掠めるような接触と、ほぼゼロ距離で見ても繊細さの損なわれない顔面。 「な、……」 「こんな風に、二人がかりで襲われちゃうかもよ、刑事さん」  ちろりと唇を舐め、アキラは昏い笑みを浮かべた。  衝撃と困惑が過ぎ、赤穂の胸に湧き上がってきたのは怒りだ。  男にキスされたからとかそういうことではない。  アキラの見え透いた思惑が、腹立たしい。  赤穂は至近の頭に、思い切り頭突きをした。  ごつん。   「~~~~~~~いっ……たぁ……、」  よろけて半歩後退したアキラは、額を押さえながら、涙目で怒鳴る。 「ちょっと、警察官が一般市民に暴力とかありなんですか!? ネットにさらしますよ!?」 「お前が一般市民を名乗るな図々しい。それと、白々しい小芝居はやめろ」 「こ、小芝居なんてひどい……」  あんなことで、赤穂を怯ませられる、あるいは呆れさせられるとでも思ったのだろうか。  随分と見くびられたものだ。 「とにかく。不穏すぎるお前を、このまま野に放ちたくない」 「あの……、俺のこと、野生動物かなんかだと思ってます?」 「動物なら理由がなくても檻に入れておけるが、人間だと犯罪者以外は檻に入れておけないからな。動物より始末に負えないな」 「そんな……」  アキラはしばらく口の中でぶつぶつと文句を言っていたが、やがて諦めたようにため息をついた。 「尊斗さんの覚悟はわかりましたけど……。本当についてこない方がいいと思いますよ。仮に俺に何かあった場合、オーナーが出てきて前端が大変なことになったりするかもしれないし、そんなことになったら巡り巡って尊斗さんも黒神会に繋がりあると思われちゃったりなんかしたりして組織内で立場が」 「その時はその時だ。何も起こさないように俺が行くんだ」 「あっ……!」  突然、アキラが大きな声を出すので、何事かと目を瞠る。 「何だ」 「いや、尊斗さんが自分のこと『俺』って言うの初めて聞いたなって思って」  なぜそんな、心の底からどうでもいいところを拾った。  アキラの緊張感のなさに、どっと疲労感が押し寄せる。 「……お前は、こんな時に」 「あ、あと、下手な小芝居で、尊斗さんの花の唇を奪ってしまってすみませんごちそうさまでした」 「気持ちの悪い表現をするな。そして蒸し返すな」  なかったことにするつもりだったのに。というかごちそうさまとか言うな。 「うーん……こんなに一緒にいたいって言ってもらえるってことは、脈ありってことなのかなあ」  懲りずにいらないことを呟いているアキラにうんざりしながらも、赤穂は内心安堵していた。  いつもの調子に戻ったのではないだろうか。  相手をするのは疲れるが、こちらの方がまだいい。 「これから前端のところに行くつもりなんだな?」  改めて確認すると、アキラは素直に頷いた。 「これ以上、被害を出したくないですからね」 「同行する」 「仕方ないなあ。俺のそばを離れないでくださいよ」  相変わらずふざけたことを言いながら、アキラはなんだか眩しそうに目を細めた。

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