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第33話
それからの展開はとても慌ただしかった。
犯人の目星もついていないことから、警察本部より捜査一課がやってきて、蔵木署に捜査本部ができることになった。
なお、司法解剖の結果は、後頭部への鈍器の一撃による脳挫傷が致命傷で、その他の打撲や裂傷については、自身をかばったような形跡もないことから、倒れた後、ほぼ意識のない状態で受けたものとのことだ。
見知らぬ人間に対しそのように執拗に危害を加えることは、絶対にないとは言えないが可能性は低いとし、また財布などが手つかずで物取りの可能性も低いことから、赤穂の予想通り、怨恨による殺人事件として捜査が始まった。もちろん、単独の事件として、である。
捜査が始まると、身分証で確認された個人情報から辿って、被害者の家族や交友関係が次々明らかになった。
被害者は清水 悠真 、二十歳。近隣に在住の大学生で、夜間は遊び歩いていたらしく、殺害された夜もバーで飲んだ帰り道だったようだ。
捜査員はそれぞれ清水の関係者をあたったが、清水はさほど真面目な学生ではなかったものの、人柄は悪くなく、恨みを抱いていそうな人物に心当たりがあるといった証言はなかった。
犯人逮捕に繋がるような目立った収穫のなかった事件の日の翌日、朝会の前に赤穂は加賀から声をかけられた。
少し話せるか、との言葉に頷くと、加賀は赤穂を署内でも人気のない一角へと誘った。
捜査本部では、午前九時から朝の会議があり、前日の捜査結果を報告する。
その前にわざわざ赤穂にだけ話しておきたいことの心当たりは、一つしかなかった。
「昨夜、碧井アキラから話を聞いてきた」
そう。その後色々ありすぎて失念していたが、一昨日の夕方、加賀とは確かにそのような話になっていたのだ。
その翌日には殺人事件が起こり、小規模警察署の蔵木署では人員が足りず捜査本部に全員参加ということになってしまったため、後回しにするかと思っていた。
殺人事件の捜査中にも関わらずわざわざアキラに話を聞きに行ったということは、やはり加賀も連続暴行事件とこの殺人事件が無関係ではないと感じているのだろう。
「……彼は、何か有益な情報を喋りましたか」
アキラと前端とのやりとりの一部始終を話せればいいのだが、さすがにそれはできない。
あの夜、赤穂が見聞きしたこととはまた別のことを話したのだろうか。
アキラと話をすり合わせておくべきだったかとの懸念が脳裏をよぎったが、続いた加賀の言葉は全く予想外のものだった。
「あいつは、清水のことも知ってたぞ」
「清水のことを……?」
「アキラによると、清水は前端と付き合ってたことがあるそうだ。本人に確認したわけじゃないが、友人以上だったことは間違いないと言っていた」
そんな場面をそう都合よく目撃するものだろうかと思わなくもないが、都心ほど遊ぶ場所が多くないこともあり、地元でたむろしたい若者には、狭いコミュニティになってしまうのかもしれない。
アキラが元恋人たちとの逢瀬を目撃されていたように、前端もまた見られていたということだろう。
「前端と関係があるとなると……殺しのヤマも連続暴行事件に関係があるかもしれない、と?」
「そうだ。とはいえ、犯人に心当たりはないらしいがな。どうやらアキラも、俺たちが嗅ぎまわっていることで気になって、黒神会の伝手を使って情報収集をしたらしい。そこで元恋人が被害者になっていたことを知って、驚いたと言っていた。『俺がかわいこちゃんにモテモテなのを妬んでの犯行では!?』とかわけわからんことを言って煙に巻こうとしていたが、恐らく何らかの報復は考えているだろうな」
報復はすでになされています。
……と、うっかり言いそうになった。
どうやらアキラは、あの夜の一部始終に関しては話さなかったようだ。
赤穂をかばっているというよりも、黒神会絡みなので詳しく言えなかったのだろう。
「報復なんて、止めなくてもいいんですか」
「まあ、これまでの碧井アキラの動向から考えて、流血沙汰はないだろ。念の為、『SHAKE THE FAKE』の担当に報告はしておく」
確かに、多少物騒な言動や足を滑らせるような場面はあったものの、流血沙汰にはなっていない。
流血沙汰でなければ何をしてもいいというわけではないと思うが、警察の方でも「起こるかもしれない」だけでたった一人を監視するほどの人員もない。
「で、だ。ここからが本題なんだが、朝会でこの話をしたうえで、前端をひっぱってくる方向にもっていきたいと思ってるから、援護射撃を頼んだぞ」
「加賀さんは、前端が犯人だと……?」
「いや、かこつけて連続暴行事件の話を聞きたいだけだ。もちろん、何らかの関係はあると思ってるし、最終的に犯人に繋がる話が聞き出せれば一番いいがな」
赤穂は前端に事情聴取する必要性があるという加賀の考えに同意し、協力を約束した。
加賀に言うことはできないが、推定犯行時刻に、前端には一応アリバイがある。
それに、家を訪ねた時の様子を思い返しても、殺人を犯すほど、他人に興味がないように思えた。
犯人の可能性は薄い……、赤穂としては、ほぼゼロだと思っている。
しかし、間接的にだったとしても、何らかの関わりはあるはずだ。
これを機会に、明らかにしたかった。
それにしても、アキラは加賀と何を話したのだろうか。
その内容が、やけに気になっていた。
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