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第34話

 朝の会議の席で加賀は挙手し、前端のことについて話した。 「未遂もありますが、管轄内で4件ほど未成年による暴行傷害事件が起こっています。同様の事件が続いたため、加害者の背後に指示をした者がいないか課内の有志で捜査を続けておりました。その件の関係者と思われる人物が、本件とも関係のある可能性があるため、報告させてください」  当然だが、赤穂に話をする前に課長へは報告を済ませているだろう。そこから本部の捜査一課長などへは情報が共有されているはずで、上席には動揺はない。  今回の事件では、犯行現場近くに防犯カメラがなかったことと、近隣住民からの聞き込みの成果が乏しかったことで長期化が予想されていたところ、捜査に値する参考人に関する話題だ。  赤穂が援護するまでもなく、捜査員の多くも興味を示し、前端を参考人として警察署へ連行もといお越しいただこうという話になった。  善は急げと捜査員が自宅へ向かったところ、前端は在宅で、大人しく蔵木署へ連行されてきた。  加賀が取調べを行うと、今回の事件については何も知らないとのことだったが、その会話の中で連続暴行事件の手口について、素直に話したらしい。  恐らく加賀は、容疑がかかっているとしたうえで、前端の教唆した事件と殺人事件がどう違うのか、弁明させたのだろう。  前端も、暴行事件自体が不起訴で終わっていることで、口が軽くなったと思われる。  連続暴行事件に関して、前端は動画投稿サイトやSNSでアバターを使い配信、共感してくれる視聴者に個別チャットやダイレクトメールなどで親しくなり、県内に住む高校生以下であることがわかると、『ちょっとした度胸試しゲーム』『簡単にお金が手に入る』などとそそのかした上で、さらに意欲を見せたものには直接会って具体的な指示をする……ということを繰り返していたようだ。  これは、アキラの『情報屋的な知り合い』が調べたことと一致する。  具体的な指示をするために少年たちと会う際には、ライブハウスの機材を駆使しアバターの姿で会っていたらしい。  動機については騙されるのが面白かったから、とのこと。  前端が未成年だった頃に起こした暴行傷害事件で、不起訴となったことを成功体験のように思っていたようで、警察というか日本の司法を馬鹿にするような意図もあったのかもしれない。  フォロワーを増やして秘密結社のようなものを作りたかった、とも言っていたらしく、加賀も呆れていた。  父親が事業をしていて家庭が裕福なため、あくせく働く必要もなく暇を持て余しているのかもしれないが、それほど時間があるのなら、社会貢献の一つもしてほしい。いやむしろ人々の役に立たなくてもいいから迷惑をかけるようなことはやめて欲しい。  前端が素直に証言する気になったのは、個人的なビデオ通話がアキラ(の関係者)によって拡散されたことも影響しているようだ。  取調べの際の前端は、犯行を否定しながらも終始怯えた様子で、最初に会った時のような太々しさはなかったという。  元々限定的な層向けの配信者だったことで、炎上に関しては生活に影響が出るほどではないようだが、自分の元恋人が殺されたため、自分は狙われているのだろうか、早く捕まえて欲しい、などと言っていたらしい。  何の恨みもない赤の他人を襲撃させていたのに、いざ自分が狙われているとなったら保護を求めるとは、処置なしというほかない。  赤穂としては、手口について本人から証言が取れたことで、言い方は不適切かもしれないがすっきりした。  やはり、不法に入手した通話記録などだけで犯人と決めつけてしまったことに関して、気になっていたのだ。  一通り取調べを終えた加賀は、「お前も何か聞くか?」と声をかけてくれたが、加賀が聞いた以上に得たい情報はないと遠慮した。  取調べは、当たり前だがすべて記録に残さなければならない。  下手に顔を合わせて前端があの夜のことを話した場合、調書に詳しく記載しなければならなくなる。  もちろん勝手にアキラについていったのは自分なので、その件で糾弾されたら責任は取るつもりだが、前端もアキラも何も触れていない以上、赤穂もあの夜のことは黙っていることを選んだ。  加賀が朝会で話していたことは、かなり連続暴行事件の真相に近かった。  アキラは、自身の持つ前端に関わる情報を、恐らくほぼすべて提供したのだろう。  殺人事件が起こり、前端が参考人となっている状況で、黙っていることの方が疑われると思ったのか、赤穂が己の得ている情報を警察内部で話すわけにはいかないことを知っていて代わりに話してくれたのか……いやそれはさすがに考えすぎか。  この殺人事件に関しても、既に何か情報を入手しているのだろうか。  話を聞きたいなどという言葉を自然に思い浮かべた赤穂は、何を考えているのかと首を振った。  既に警察官としてグレーな領域に踏み込んでいるのだ。  これ以上、非合法な手段に頼ってはいけない。  結局、前端は本人曰く殺人事件とは無関係とのことだったが、被害者の清水の周辺にはこれといった加害者候補がいないここともあり、前端の関係者も洗うということで話はまとまった。  前端から恋人関係にあった人物を聞き出し、赤穂は面識のあるリツキに話を聞きにいくことになった。 「それにしても、加害者も男、被害者も男、元恋人も男、聞き込み相手も男、偏見はないですけど、男ばっかりですね」  捜査本部が立っている間の束の間の相棒となった大石が思わずといった様子で呟く。  大石は、本部からやって来た捜査一課の中で最も若い刑事だ。  捜査本部では基本、ベテランと新人で組ませて捜査にあたらせる。捜査手法などの技術を若手に学ばせるためだ。(ちなみに今回の場合は『赤穂』『大石』って赤穂浪士か! というどうしようもない理由で組むことになったらしいと梅ヶ枝から聞かされたが……)  一応赤穂の方が階級は上だが、若くして捜査一課の刑事ということは、赤穂よりも優秀で熱意もある警察官に違いない。  そんな前途有望な若者を前にして、本当にな、ともっともらしく応じつつも、実は連続暴行事件の5件目の被害者になりかけた上に一人先に真相を知っていた赤穂は、何ともいたたまれない気持ちになるのだった。

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