40 / 41

第40話

 事件現場には、まだ規制線が張られたままだった。ブランコ、砂場、滑り台、砂場のそばと入り口近くにベンチが一つずつ。住宅街にはよくある小さな公園だ。  平日の昼間だが、周囲に人気はない。殺人事件が起きたからではなく、元から人通りの少ない場所なのだろう。車通りもなく静かで、狭い通りを挟んだ向こうには、築年数を経ていそうな民家が目立つ。人が住んでいない家もあるようで、ここに来るまでにも小さな空地をいくつか見かけた。  管理の行き届いていない私有地が多く、死角も多い。これでは目撃証言も得られないはずだ。  そして凶器はまだ見つかっていない。不審な車の目撃情報や、不審人物を乗せたタクシーも確認されていないことから、犯人は徒歩圏内に住んでいるかこの近くに仲間がいるのでは、というのが捜査本部の見立てだ。 「誰でもよかった……わりには念入りなんですよね」  鑑識からの報告を思い出しながら現場を再確認していると、大石がぼそっと呟いた。  赤穂はそうだなと頷きながら、考える。  今回は、むしゃくしゃしていて誰でもいいから殴った、という事件ではないだろう。とても計画的だ。  計画的かつ相手が誰でもよかった場合、犯人は捕まりたかったとか、承認欲求を満たすためとか、自分がやったことを世間に知らしめたいケースが多く、もっと人気のある場所で犯行に及ぶ。 「念入りに、死体を隠そうとは思わなかったのだろうか」 「やっぱり、見せしめとか?」  見せしめという見方は、既に捜査本部でも言及されている。  この辺りは閑静な住宅街だが、周囲には暴力団と無縁とはいえない治安の悪い地区もあり、なんらかの事件に巻き込まれていた可能性はある。  ただ、清水の関係者から、反社会的勢力との繋がりは一切見つかっていない。  何も見つかっていないが、状況としてはそれらしい。赤穂は見せしめ説に乗ってみることにした。 「見せしめだとしたら、誰に、何を見せつけたかったかだが……」 「そうですね……。暴力団以外だと、宗教なんかもありますか」 「宗教……」 「これだけ洗って出てきてないんだから、宗教はもっとないか」 「……いや」  何か、引っかかる。  以前、アキラが宗教という言葉を口にしていなかったか。   『あとは、そういうちょっとヤバい奴がかっこいいみたいな感じで周りで盛り上がって、宗教とか推し活の延長みたいになってる集まりとか』  もんじゃ焼きを食べた時に、こんなことを話していた。  あの時はまだ何もわかっていなかったが、あれは前端と前端の取り巻きのことを言っていたのではないか。  前端の元恋人や、親しかった人物は本人から確認できる範囲では誰かしらが当たっているはずだ。  では視聴者はどうだろう。熱心な視聴者がいると本人も言っていたはずだ。 「前端のチャンネルの視聴者に関して、誰か確認しただろうか」 「誰か当たってるとは思いますけど……、何か気になることが?」  前端のチャンネルには暴行事件を起こさせてしまうほどの求心力があること、中でも近隣の視聴者を集めていたこと、熱狂的な視聴者がいた可能性などについて、かいつまんで話した。  大石は、それは気になりますねと頷く。  戻ったら確認してみよう、そんな風に話がまとまったところで、ポケットの端末が着信を報せた。  確認すると、着信はリツキからのものだ。  大石に関係者からだと一言断って、画面をタップする。 「はい、赤穂です」 『どうも、リツキだけど。昨晩怪しい奴に襲われかけたから一応報告しとこうと思って』  いつもの調子で告げられた驚きの情報に、端末を握る手に力が入った。 「……聞かせてください」 『昨日の夜、バイトの帰り道で誰かついてきてるような気がして振り返ったら、バット持ってる奴が後ろに立ってて。うわって思って逃げようとしたら、ちょうど車が通りかかって、そいつは逃げてったよ』 「その時に通報はされなかったですか」 『実害なかったし、労働して疲れてたから聴取されるのも面倒だと思って。まあ一応、変わったこと、ってのがあったんで連絡だけ』  すぐに通報してくれていたら目撃者などが探しやすかったはずだが、彼の言い分も理解はできる。こんな風に個人的にでも連絡してきてくれることをありがたいと思うべきだろう。  この後直接会って話が聞けるかと尋ねると、「それが面倒だったんだけど」と渋々ながら了承してもらえた。  自宅に行くので外出しないように念を押してから通話を切ると、すぐに捜査本部に連絡を入れ、リツキのこととこれから聴取に行く旨を伝える。  通話を終えると、隣でやり取りをうかがっていた大石が、きらりと目を光らせた。 「これは同一犯……の可能性は高そうですね」 「予断は禁物だが、無関係ではないと思う。行ってみよう」

ともだちにシェアしよう!