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第3話 物凄ーく、嫌だけど
αだけどどんなΩの誘いにも応じない、という変わり者のレイガー殿下。
なるほど、怜雅だとわかれば納得だ。
奴の好みは明らかにΩじゃなくて、αだからだ。
レイガー殿下はひとしきり大笑いしたあと、目尻に滲んだ涙を拭いながら言った。
「ストーカーか、確かに。しかし悪いな、俺はお前のことが諦めきれないんだ」
素直にストーカー行為を認めるものの諦めきれないと口にするレイガー殿下に、俺は口を尖らせる。
「前世 から言ってるけど、言ってますけど、俺はバリタチなんだよ。……なんですよ」
「普通に話していい」
「それは、どうも。あのさ、怜雅はなんで、俺なんだ?」
ずっと、不思議だった。
いくらでも周りに可愛いネコちゃんは寄ってくるのに、どうしてよりにもよって、掘られるつもり皆無な、俺の尻を狙うのだろうかと。
最初は揶揄っているのかと思っていたが、すぐにその真剣な様子で、本気だってわかるくらいだったし。
「格好悪い話だから、あまり言いたくはないんだが……俺は昔、嵐恩に救われたことがあるんだ」
聞けば怜雅は、前世でどこぞの御曹司だったらしく。
高校生くらいの俺と、過去に一度会ったことがあったらしい。
その頃の怜雅は自分のセクシャリティを受け入れられず、精神的にどん底だったという。
公園にいた怜雅の鬱々とした様子を気にした俺から話し掛けたらしいのだが、怜雅は投げやりな気持ちで赤の他人に初めて自分のセクシャリティを明かしたらしい。
その時俺は、「偶然ですね、俺もゲイですよ。でもいつも好みの子に嫌われちゃうんですよねー」と恥じる様子もなく、あっけらかんと笑って言ったそうだ。
能天気な俺に怜雅は、自分の抱えている悩みが馬鹿らしくなるほど、毒気を抜かれたらしい。
俺と話したことで怜雅は自分を受け入れられるようになり、滞っていた仕事も捗るようになった。
「あー、確かにそんなことがあったような……? あれって怜雅だったのか。全然気づかなかった」
清涼感のある公園でどよんとした空気を醸し出していた辛気臭い男と、ハッテン場でキラキラ輝いていた男は俺の中で全く結びつかなかった。
「俺がお前にこだわる理由がわかったところで、先に進んでいいか?」
「いいわけあるか!」
再びコトを進めようとする怜雅……レイガー殿下に、俺は怒鳴りつける。
普通に話していいとは言われたけど、確実に不敬罪。
でも、王族に夜伽を命じられたら誰も断われないのに、命令しないあたりが、こいつらしい。
「大丈夫だ、初めてでも痛くないよう、優しくするから」
うわああああ!!
俺が前世で、ネコちゃんたちに散々言ってたやつ!!
「それ、タチ定番の台詞だよな」
「そうなのか? 前世では俺に跨ってくるような奴ばかりを相手にしてたから、こんな台詞は言ったことなかったが」
それなのにモテモテだったと自慢したいのか、お前は。
俺がふくれっ面になると、怜雅は尖らせた俺の唇にキスをした。
「な、な……!」
命令はせずとも、こんなところは強引だな!
せめて相手の同意くらいはとるべきじゃないか!?
許可しないけどな!
「嵐恩なら、俺のしつこさは知ってるだろ?」
堂々と言われて、俺は遠い目をする。
確かにこいつはしつこい。
前世から今世までついてきたやつだ、下手すると来世までついて来られかねない。
「どうしても、俺じゃなきゃダメか?」
「ああ、駄目だ。前世で再会した時から、俺にはお前だけだ」
うわあ、なんで前世でも今世でもこいつを助けてしまったんだ、俺のばかばかばか!
しかし、今のこいつは王族。
俺に守らないという選択肢はないし、逆にこいつも王族だからこそ不自由を強いられることもあるだろう。
そう、例えばΩちゃんとの政略結婚、とか。
「言っとくけど、俺、重婚は認めないぞ。お互いにとってお互いだけだっていうひとりと、一緒になりたいから」
「それは良かった。俺も重婚は認めない派だ」
嘘だろ。
せっかく重婚が認められる世界で、しかもやりたい放題な王族のくせに、そんなところまで価値観一緒かよ。
因みに俺がΩちゃんに振られる理由は、大抵これだ。
ほかの男とシないでくれ、とこの世界でお願いすれば時代錯誤だと言われ、ゴミを見るような目で見られるのだ。
「王族のくせに、後継者ができなくてもいいのか」
「幸いなことに俺には優秀なΩの弟がいるからな。アランが孕まなくても、問題はない」
「ううううう……」
「試しに、一度だけどうだ」
レイガー殿下に唇をなぞられながら請われる。
一度だけ。
そう言われて、思い出した。
そうだ、怜雅は一度抱いた子を二度と抱かないことで、有名だった。
もしかして怜雅は、意地になっているのかもしれない。
俺を抱きたいというより、俺を抱けなかったことに悔いが残って、執着しているだけなのかもしれない。
そう気づいて、ほんの少しだけレイガー殿下を身近に感じた。
狙っていたネコちゃんやΩが他のやつにモーションをかけているところを見れば、確かに面白くはないしな。
タチの俺は、ネコの流儀? を知らない。
一度抱けば、こんなもんかと、この程度かと、あっさりと解放してくれるだろう。
「……わかった。一度だけな」
前世で怜雅が死んだの、多分俺のせいだし。
そのお詫びに、尻を差し出すくらい――
嫌だけど。
物凄ーく、嫌だけど。
俺は仕方なく、頷いた。
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