2 / 25
第2話
「王国からの使者が来たぞ。」
「すぐに、向かう。待っていてくれ。」
門番からの報告で急いで村の入り口へと向かう。ついに来たか。村は殺気だっていた。交流があった隣の村で王国は虐殺を行ったからだ。しかし、王国の力は強大で、俺たちだけでどうにかなるものではない。村人と使者が、衝突しないため、信用している数人の仲間を連れ、他の村人は家に入れさせた。入り口には、数人の王宮の人々がいた。驚いたことに、彼らは鎧なども纏っておらず、軽装をしていた。しかし、木陰などに目を凝らすと武器を持った兵士が待機していた。なるほど、村は包囲されているらしい。俺は慎重に言葉を選びながら恭しく挨拶をした。敵意がないことを伝えるため、大袈裟に頭を下げる。
「よくおいでくださいました。本日はどういったご用件でいらしてくれたのですか。」
すると、数名が俺を見て嘲笑ってきた。王国の奴らは狩猟で生活している俺たちを野蛮人だと見下している。それに言語も違うから、俺達の言葉は通じてもいないのだろう。仲間達が苛立つ、ただ俺が何もするなと言っていたため、一緒になって頭を下げてくれた。
「お出迎え、ありがとうございます。本日はあなた方の村の視察に参りました。」
王国からの使者の1人が俺達の言葉で挨拶をした。仮面を被り、顔は見えないが、物腰柔らかそうな物言いだ。
「私は、通訳をしております、グリシャと申します。そんなに警戒しないでください。私達は、あなた方と仲良くしたいのでございますから。」
よく言う。俺達の村を包囲して、武力をちらつかせている癖に。その通訳の作り笑いや、変に丁寧な喋り方が返って怪しい。俺は警戒をとかず、挨拶を返す。
「私は、村長の補佐のロキです。よろしくお願いします。せっかく、来てくださったのに、村長が挨拶できず、申し訳ない。」
こめかみに筋を浮かべながらも、笑う。もし、ここでこいつらの気に触ったら隣村のように虐殺が起きてしまうかもしれない。俺は怒りを抑えて、握手を求める。
「いえいえ、とんでもない。こちらこそ突然、訪問してしまい申し訳ないですね。どうぞよろしくお願いします。」
通訳の男はそう言って、一見親しげに握手を返してきた。ただ、手袋は外さなかった。野蛮人には触れたくもないのだろうな。村長が弱っている今、こいつらが村に入れるのは良くない。どうにか、帰らせようと俺は、理由を考える。
「申し訳ないのですが、流行り病が村で起きています。もし、皆さんにも感染してしまうとため、日を改めていらしてください。」
事実と嘘を織り交ぜると人は騙されやすいのだ。流行り病にかかっているのは父だけだ。俺が言ったことを、通訳が他の使者に伝える。すると、帰ろうという雰囲気が漂い始めた。よし。こいつらが帰ったら、村の井戸、武器庫、食糧庫の場所を隠して少しでも侵略の情報になりそうな物は次の偵察までに隠せるだらう。俺は安心しつつも、様子を見守る。すると、突然、通訳が都合の悪いことを言ってきた。
「私の無粋な推測ですが、村長さんがいないのは、流行り病にかかっておいでだからじゃないのですか。」
中々に鋭い奴だ。俺は動揺を悟られぬように、和かに返す。
「いいえ、村長は南の村に行っているのですよ。だから、満足に案内できる者がいないのです。」
通訳は俺の発言を聞き、嘘らし謝罪をする。本当にムカつく奴だ。
「そうだったのですね。私としたことがすみません。怒らないでくださいね。」
「間違えは、誰にでもあるものです。私も紛らし言い方をしてしまいすみません。」
これ以上、こいつと喋るのは限界だ。後ろの仲間も殺気だっている。それは伝わっているだろうに、飄々と通訳は続ける。
「ああ、なんて聡明なお方だ。私、感動いたしました。是非、お近づきになりたい。」
よくもまあこんなに口から出まかせを言えるな。速く帰ってくれ。
「都合が悪いのですね。では、私達はまた来ますね。」
含みのある言い方をして、通訳と王国からの使者達は帰って行った。
グリシャ達一行と共に、控えていた兵士達も帰っていった。彼らを刺激せず、帰ってもらえてよかった。村に漂っていた緊張感も緩んだ。だが、安心してはいられない。奴らはまた来ると言っていた。次の視察の日に備えて、準備をしなくては。俺は今までの出来事を父に報告する。
「そうか。ついに王国の奴らがやって来たのか。村の警備を強化せねばなるまい。私も次の視察には、出向こう。」
父は険しい顔をしている。それ程、厳しいと状況に俺達の村は立たされているのだ。やはり、村長の父が出迎えなかったのは、奴らに舐められてしまったのだろう。俺が不甲斐ないばかりに、病気の父に負担をかけてしまう。父も病気を理由に、村長の仕事を休んでいたが、復帰することになりそうだ。父は久しぶりに戦装束に着替える。俺はそれを手伝うと、父の鎧に紐を通して結ぶときに、以前より細い背中を見て心が痛んだ。俺は村の皆から、慕われている。でも、父程の威厳はなく、村の皆を安心させるのは父の一声なのだ。父の指示で、村中の男を集める。
「ついに、王国の奴らがやって来た。奴らは我らの村を侵略する気なのだろう。村を守るため、お前達の力をかしてくれ。」
父の発言に、実際に王国の兵士をみて、怯えていた俺の仲間も勢いづく。
「勿論だ!任せてくれ。」
「王国の奴らなんかに負けてたまるか!」
村が一気に団結したのを肌で感じる。やはり、父には敵わない。俺も速く父に追いつかなければ。
「皆、ありがとう。今日から、村の見張りを強化する。ロキの指示に従って、村の見回りを頼む。」
俺は村の見張りの総括を任された。村を守る大切な役割だ。そこに父からの信頼を感じ、全力を尽くすことを誓う。その後も、父は村の環境整備を村一番の切れ者であるテオに任せたり、テキパキと指示を出していく。父から仕事を任された者は皆、覚悟の決まった目をしてい村を絶対に守るという強い意志がみえる。しかし、その中で声を上げる者がいた。先日、成人したばかりのまだ若い男達だ。
「村を整備するよりも、隣村の仇を討つため王国に攻め入った方がいい!」
「狩猟もしていない、王国の奴らに俺達が負ける訳がない!」
彼らはまだ若いから、王国の恐ろしさを理解していなのだろう。隣村は彼らのように言い、残された者達で王国を攻めた。しかし、王国の圧倒的な数の有利で、王国を囲む壁にさえも辿り着けなかったのだ。この情報は、村人に混乱を与えないため俺と父、そして父直属の家臣しか知らない。そして、若者以外もこの案に賛同する者が増えてきた。どうすればいいのだろう。このままでは、たくさんの村人が無駄死にしてしまう。
「黙れ!侵略して奪おうとするのは、奴らと同じ下賎な行為ではないか。我ら、誇り高き北の森の民だぞ!その威厳を失ってどうする。」
父の叱責に、村人達は黙る。俺たちは、狩猟をして生活しているが、命への敬意を忘れてはいけない。これは、村ができたときから続く教えだ。侵略という行為は、人々の命を奪うこの教えの対極に位置するものだった。父のお陰で、村人達は、この教えを思い出したのだ。そして、各々、父の指示した仕事へ向かう。こういう時に、父との実力差を実感する。俺はまだ若く、経験がない。体だけは鍛錬で強くなっても、父のように村人を止めることはできなかった。俺は、父に認められ気になっていただけなのか。もっと努力しなくては。
父は最近は村に出て、村人達に声をかけ士気を高めている。父から声をかけられた村人達は、いっそう仕事に励む。村人達の前では、気丈に振る舞っているが、家に帰ると酷く咳き込んでいるのを母と俺は知っている。村長だから、誰にも弱い姿など見せられないのだ。そんな父の姿勢を見習い、俺も極めて快活に振る舞う。それぞれの見張り場所には、毎日出向き、俺自身の目で異常がないか確認する。幸い、今のところ、現れたのは野生の動物くらいなようだ。村の環境も、テオの指示のお陰で、武器庫、食糧庫、井戸など侵略の際に攻撃されそうな場所は隠されている。村は完全に、王国の使者を迎える準備は整った。俺はいつ王国の奴らが来てもいいように、さらに鍛錬に励んだ。そんな俺を母とアリは心配するが、休んでなどいられないのだ。
ともだちにシェアしよう!

