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第12話

どうしてあんなことをしたんだ、グリシャ。村長の仕事にも段々と慣れていき、生活に余裕ができたためか、グリシャのことを考える時間が増えた。グリシャの言っていた俺の両親の罪は、その場で考えたにしては、でき過ぎた。信じたくないけれど、俺の弱い心は優しい母に疑いの目を向けてしまう。父や母に問い正して、違うと否定してもらいたい。でも、父はもうおらず、父が亡くなって弱っていく母にそんなことは、聞けない。父の教えにならい、俺は村人に弱っている姿をみせまいと振る舞っていた。ただ、テオだけは、俺の異変に気づいていたみたいで、酒をもって俺の部屋に訪ねてきた。 「ロキ、最近、調子が悪そうだ。何かあったのか。」 テオは俺を村長としてでなく、1人の友として心配してくれているのだろう。足を崩して敬語も使わずに、話してくれる。その心遣いに、俺は隠していた本音を漏らす。テオなら、グリシャの話の矛盾を見つけ出して、否定してくれるんじゃないか。そんな期待を宿して、俺はグリシャの言っていたことを全て話した。帰ってきたのは、明るい返事だった。 「それは本当だよ。俺がお前の父親に熊に殺されたように見せかけるようにアドバイスしたんだ。すごい、だろう。誰も気づかなかった。アレンはまだ、子供だから暴力をちらつかせて、ずっと監視してれば誰にもバラさないしな。」 テオはまるで武勇伝のように誇らしく話す。俺は優しさから、両親がグリシャを家に住まわせていたと思っていたのに、それはただの監視するための行為だった。信じたくないと思っていた事実が友によって肯定されてしまった。酷い絶望感が俺を襲う。俺の両親と友が、あの幸せな親子を壊してしまったのだ。そんな両親の子供である俺をグリシャが憎むのは、当たり前だ。どうして、テオはそんなに誇らしげに話すのだろう。俺は怒りに指が震える。 「どうして、人を殺したのを隠したことをそんな風にはなせるんだ。」 俺の口からは、今まで出したことのない、低い声がでた。俺の地を這うような声にテオはびくつく。 「なんで、そんなに怒っているんだよ?あんな売女、どうなったていいだろう。あの女は、村に留まるために、村中の男と関係を持ってたんだから。」 グリシャから聞いたよりも、最悪な事実がテオの口から吐かれた。村中の男がターシャを慰みものにしていたのだ。吐き気がする。どうして、優しいターシャにそんなことができたのか。 もうこいつの話は聞きたくない。 「帰ってくれ、お前の話を聞くと耳が腐る。」 俺は友に冷たい言葉をなげ、追い出した。大切な筈の友が今は人の皮を被った獣にみえた。 翌朝、目を覚まし、村長の仕事をする。前まで、大好きだった村の景色が霞んでみえる。村人は、信用できない。今は、ニコニコ笑っているけど、ターシャを抱いているときはどんな顔をしていたのだろう。きっと快楽に取り憑かれた獣みたいな顔で抱いていたに違いない。そんな中、無理に笑顔を取り繕うのが辛くなって、俺はかつてグリシャが住んでいた小屋に向かった。小屋の中に入った途端、ターシャが俺を慰めてくれた晩のこと、グリシャと遊んだ思い出が俺の頭にめぐる。ターシャは、自分を慰みものにしている男の子供をどんな気持ちで慰めてくれたのだろう。無知でバカな俺は、ターシャに頼ってしまった。憎かったし、殺したかった筈だ。それなのに、この小屋には、優しい思い出しかない。グリシャに会って、謝りたい。謝って許されることではないけど、謝らないと俺の気がおさまらない。 俺は家に帰り、王国へ向かうための準備をする。1人で行くため、荷物は最低限だ。夜中まで待ち、母が寝静まっているのを確認して家を出る。村の裏口から出ようとすると、何者かが後ろから近づいてきた。バレたか。ただ、足跡は1人なので、俺は首を叩いて気絶させることにして振り返って、手を振り上げる。首に触れる直前、俺は手を止めた。俺を追ってきたのは、アリだった。 「ロキ、行かないで。お願い。」 アリは泣きながら俺に擦り寄ってくる。狩へ見送ってくれるときの笑顔はない。 「すまない。アリ、俺は親友に謝らなければいけないんだ。だから、離してくれ。」 「嫌よ。ロキ、あなたは村長なのよ、あなたがいなきゃダメなのよ。テオから、ロキのお父さんとお母さんのこと聞いたわ。私も一緒に罪を背負うから、だから残って。」 優しいアリにそんな罪は背負わさられない。それに、グリシャに謝らなければいけない。俺はその罪を知りながら何もしないでいれる程、図太くもない。アリを押し返すと、アリの顔には、絶望が浮かぶ。俺が初めて、アリを拒絶したからだ。そして、泣き崩れる。俺は後ろから、聞こえるアリの泣き声を振り切り、王国を目指した。

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