16 / 25

第16話

ガラガラ。また、戸が開かれた。男がやってきたのだろうか。ただ、おかしい。いつも荒い息遣いや、獣みたいな匂いがしない。 「こんばんは。こんな遅くにどうしたんですか。」 母の声は、冷たい声をしていなかった。相手は黙って母の前に立っている。誰なんだろう。 「この悪魔が!!よくも私から夫を奪ったな!!!」 さっきまで、静かだった人物が狂ったように叫びだした。女の声だ。声の主は母に、近づく。 「ごふ!!」 母の叫聲とは違う、叫びが響く。そして、あたりに鉄臭い香りが漂った。 「よそ者も癖に、人の旦那に色目を使って!許さない!許さない!許さない!許さない!」 グサ、グサ、グサと女は叫びながら、母を滅多刺しにする。次第に母の声は聞こえなくなり、生暖かい液体が俺の布団にまで染みていく。このままでは、母が死んでしまうと思い、俺は布団を跳ね除け女を蹴る。 「やめろ!」 女は俺に蹴られ、母さんから離れた。そして、月明かりが女を照らした、そこにいたのはロキの母だった。ロキの母は鬼のような形相で、 「お前達のせいで、あの人はおかしくなったんだ。親子、諸共死んでしまえ!!」 と言い、俺に襲いかかる。腕をすごい力で掴まれて動けない、どこにこんな力があるんだ。刺されると思った瞬間、布団にぐったりとしていた母が俺を抱きしめた。グサリ、母の胸から銀色の刃がみえる。母は、俺を守るように覆い被さり、全ての刃を受け止める。母の腕の中は、血と金木犀の匂いがした。 「何をしているんだ!!」 ロキの父が、入ってきてロキの母を羽交締めにする。俺の母の体はすでに冷たくなっていて、子供の俺でも死んでいるのがわかった。ただ、頭から浴びた母の血だけは温かった。 「なんてことを、、、、。」 一目見ただけで、ロキの父は状況を理解したのだろう。ただ、呆然として涙さえ流していた。今まで、母を散々、無理矢理犯してきたのに、なんで泣いてるのだろか。俺は母を失った悲しみと死ぬかもしれなかった恐怖で、逆に冷静になって、無感情に2人をみつめる。すると、そこに俺をいじめていた子供の1人であるテオが入ってきた。こんな惨状にテオは臆することなく、どこか楽しんでいる様子さえしていた。 「村長、このことが、村人にバレるのはよくない。その女は熊に殺されたことにしてしまいましょう。」 テオは唖然とするロキの父に悪魔のような提案をもちかける。その提案を聞くと、ロキの父はすぐさま受け入れた。その後、テオの指示で母の遺体は熊に腹を裂かれたようにするために切れ味の悪い刃物で切り付けられ、臓物を抜かれた。母の遺体が弄ばれるのを俺はみるしかできなかった。 「アレンも殺してしまいましょう。」 と、テオはロキの父に提案する。よかった。これで、俺も母の所にいける。はやく殺してくれと、壊れた俺の心はいう。 「いや、アレンは子供だ。暴力をちらつかせていれば、黙っているさ。それに他所のもののこいつのいうことなんて誰も信じない。」 俺の死への望みは、ロキの父の一言によって絶たれてしまった。 母の葬儀の間、母を散々犯してきた村人は泣いていた。母を死に追いやったのは、自分たちの癖に、本当に悲しそうになく奴らに吐き気がした。悲しみと絶望で無表情になった俺の背中をロキの父は、嫌な熱をもった手で撫で続けた。 俺を監視するため、ロキの両親は俺を自分たちの家に住まわせた。母の仇と母を弄んだ男との生活は息が詰まり、一度も心が休まらない。それに、時折、ロキの父は俺に母を見ていた気持ち悪い視線を投げかける。俺はその度にあの嫌な香の匂いと、男の荒い息遣いを思い出す。俺はロキの部屋で寝ているが、部屋の外から人の足跡が聞こえる度に、ロキの父が俺を母みたいに犯しに来たんじゃないかという恐怖に駆られた。そんな、俺を気遣い、ロキは扉側で寝てくれるようになった。お陰で、少し俺は安心して眠れる。手にはいつも母の形見である金木犀の花の匂い袋を持って眠った。苦しいときや怖いときにこの香りを嗅ぐと落ち着くのだ。ただ、金木犀は植物のためか、香りはずっともってはくれない。香りが薄れていくうちに、母との幸せな思い出も消えていくみたいで、俺はロキに泣きついた。 「ロキ、匂いがしなくなっちゃった。どうしたらいいのな?」 ロキは俺のために、大人達がいくなっと言っている森に一緒に行こうと言ってくれた。そこに、金木犀が咲いているらしい。なんだか、冒険みたいで久しぶりワクワクした。決行は、狩の日だ。

ともだちにシェアしよう!