26 / 42
第26話
グリシャに会うために王国へと向かった俺はその広さに圧倒された。国の正規の入り口から入るのは、難しいと判断して、王国を囲む壁の周りを歩き、崩れている壁から侵入した。その先は酷い匂いが漂い、鼠が走り回る場所だった。道端では、濁った目をした生きているのか死んでいるのかわからない人達が倒れている。グリシャを知らないか、尋ねようにも俺の言葉は、通じず、見向きもされない。広い王国で誰とも繋がれない孤独が俺を襲った。街に漂う悪臭の中、俺は必死にあの日部屋に残された残り香を求めた。
「もし、お兄さん、大丈夫かね?」
久しぶりの故郷の言葉に振り返ると、死んでいると思っていた濁った目をした老人がいた。ようやく、俺の言葉が通じる人に出会えたのだ。俺はこの機会を逃すまいと、老人に駆け寄り尋ねる。
「人探しをしているのです。グリシャという名前なのですが。何か知っていることがあれば教えてください。」
俺がこういうと老人は哀れみの目を俺に向ける。そして、諭すように話始めた。
「見たとところあなたは、北の森の民でしょう。南の森の民の仇を取りに来たのでしょうが、あなた1人でどうにかできる程の男ではない。だから、復讐を諦めて村へ帰りなさい。」
この老人は俺が仇 を取りに来たと思ったらしい。俺が死なないように止めてくれている。なんとか、グリシャのことを聞き出そうと俺は話を続ける。
「仇をとりにきたのでは、ありません。私は彼に謝りにきたのです。」
俺がこういうと老人は、目を見開いた。無理もない。同胞の仇である男に謝罪をしたいなんて俺がいったからだ。
「王国があなた達への侵略行為へ踏み切る元凶となったものに、なぜ謝罪をするんですか。」
老人の言い方は優しいが、グリシャへの嫌悪感が言葉の節々に感じられる。
俺はグリシャがただの悪人であるとは、思われたくなくて、村で彼ら親子に起きたことを全て話した。すると、老人はハラハラと涙を流した。そして、告白する。
「幼い子がそんな経験をすれば歪んでしまう。やはり、ターシャに北の森の民の言葉を教えるべきではなかった。彼をああしてしまったのは、私だ。」
今、なんと言った。この細く濁った目をした老人はターシャを知っているのか。老人の発言を俺は聞き返す。
「何故あなたがターシャに私達の言葉を教えたのですか。あなたは何者なのですか。」
俺は老人を揺さぶると、老人はボロボロの布で涙を拭いながら答えた。
「私は王宮に仕えていた学者だよ。主に、この国にいるあなた達のような、少数民族を研究していたんだ。」
王宮に仕えていた学者がなんで、こんな所にボロボロの服を着ているのか。そんな疑問が湧いてくる。それを悟ったのか、老人は続ける。
「王があなた達を侵略するという決定に反対したら、追い出されてしまってね。ずっと研究をしていたから手に職もなくて、ここに居着いたのさ。」
王宮にも俺たちを蛮族としみない人間はいたのか。俺達の村にきた使者とは様子の違う老人に驚く。
「あなたの謝罪したい理由は、分かりました。ただ、あなたがそうしたとしてもグリシャは許してくれないでしょう。それでも、会いたいのですか。」
老人は俺に問いかける。グリシャは俺を殺すかもしれない。俺の身を案じているのだろう。老人の優しさが言葉も通じない場所で孤独だった俺の心に沁みる。ただ、ここで立ち止まってはいられない。
「許されなくてもいいんです。親友を傷つけたまま、生き続けるなんて私にはできません。たとえ、グリシャに殺されてしまってもかまいません!」
俺は老人を見つめると、濁っていた老人の目に光が宿る。
「その覚悟があるなら、私はあなたをグリシャの下へ案内しましょう。」
老人は入り組んだ路地をスイスイと進む。まるで頭に地図が入っているみたいだ。そして、古びた通路の入り口 に案内された。
「ここは、王宮の中にある私の研究室だった場所に繋がっています。グリシャの部屋はそこから一つ上がった階の一番、はじにあります。」
「ありがとうございます。」
俺は学者に深々と頭を下げると、学者は祈るように俺の手に握る。その手は熱く俺に希望を託すみたいだ。
「どうか、気をつけてくださいね。」
その言葉と手の温もりを胸に俺は、路地へと入っていく。
学者の研究室に入ると、誰も使っていないはずなのにカビ臭くもなく、綺麗に掃除されていた。ふと、本棚を見ると一冊分の隙間が空いていた。研究室から出ると、広い廊下が続いていた。見張りを掻い潜りながらグリシャの部屋に向かうのは骨がおれた。そして、グリシャの部屋の門に手をかける。
ともだちにシェアしよう!

