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第28話
無機質な石の冷たさを感じる。俺の前にいるグリシャを見上げると、その唇は震えている。俺はさっきの冷たい手を思い出してグリシャの手に触れる。
「触るな!」
グリシャは俺の手を振り解く。その表情は俺への拒絶がはっきりと浮かぶ。グリシャは自分の母を苦しめた親の子である俺を憎んでいるという事実が俺にのしかかる。もう俺達は親友になんて戻れない。何も知らなかった俺はグリシャがどんな気持ちで俺といるかも考えずに、彼の親友は俺だと自負していた。グリシャに許されなくたっていい、謝りたい。そう思い俺が口を開こうとすると、グリシャは俺と自分に冷水をかける。薄手の白い上着を着ていて見えなかった情事の跡が透けて見える。それはグリシャの部屋でみた光景を俺に突きつける。
「汚いだろ。俺は母を苦しめた男に股を開いて媚びを必死にうってるんだよ。母の形見である金木犀の香りを纏ってな。お前はこんな俺を嘲笑いにきたのか。」
グリシャはあの日のような冷たい視線を俺に向ける。俺がグリシャを嘲笑うなんてする訳がない。
「違う。俺はお前に、謝りたくて来たんだ。グリシャ、俺は」
グリシャは俺の顎を掴み、俺を睨みつける。俺の話は遮られてしまう。
「謝る?そんなことの為に村を捨てて、敵だらけの王宮にまで来たのか。お前が何をしても俺はお前を許さないのに。本当に救いようのない馬鹿だな。」
グリシャの手に力が籠り、俺の顎からは血が滲む。グリシャの冷たい体温が俺の体温を奪っていく。俺は無理矢理、話し出す。
「お前に許されなくてもいい。ただ、謝らせてほしい。俺は無知でグリシャの優しさにずっと甘えて、お前を傷つけていた。グリシャ、今まで、すまない。」
俺はグリシャの目をみつめる。ようやく、言えた。そしてグリシャの冷たい手を握る。すると、グリシャは泣いているような笑っているような表情をする。
「俺がいくら壊そうとしても、お前は変わらないんだな。お前は俺の光で枷だ。その綺麗さが俺は憎いし、愛おしいよ。」
そう言ってグリシャは俺を抱きしめる。その腕の中はもう金木犀の香りはしなかった。
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