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第29話

俺たちは何も言わずに今まで会えなかった時間を取り戻すみたいに抱きしめあった。グリシャと俺の体温が溶け合って一つになったみたいだ。ようやく、グリシャと心が通いあった気がする。でも、ここは王宮だ。俺達の幸せな時間は長くは続かない。廊下から足跡がこっちに向かってくる。グリシャは名残惜しそうに俺を離す。 「ロキ、足音はそう近くない。だから、来た道を戻って逃げろ。」 やっと通じ合えたのに、俺は北の森の民で、グリシャは王宮の人間という身分が2人をわかつ。もう、グリシャに会えないかもしれないという思いが俺の足をとめる。いつまでも、動かない俺を安心させるためにグリシャは頭を撫でる。 「俺は王のお気に入りなんだ。だから、またお前のとこに行けるよ。これが最後じゃない。」 グリシャは優しく微笑んでいる。ただ、グリシャの言っていることは嘘だと俺にはわかった。あの傲慢な男がグリシャを離す訳がない。でも、これ以上優しいグリシャを困らせたくなくて動き出す。 「グリシャ、また会おう。俺はずっとお前を待っているから。」 「ああ、また会おう。」 グリシャと最後に抱擁を交わし、お互いの匂いを脳に焼き付ける。 俺はグリシャをおいて、足速に王宮の外を目指した。できもしない約束を信じて進む。きっと、また会える。と俺は何度も頭の中で繰り返した。

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