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第31話

グリシャと別れたあの日から1週間ほど経った日に、俺の下へ一冊の本が届けられた。本を受け取った門番に聞くと、痩せた老人が届けてくれたらしい。本は赤の布地に金の刺繍が施された立派な装丁をしている。しかし、何度も読まれたのかページが取れかかったのを修復した跡がいくつもある。俺は本を開く。本は俺達の言葉が、王国の言葉でなんと表すかが書かれた辞書のようなものだった。カサリと一枚の手紙が本の隙間から落ちた。見るとグリシャの筆跡で俺の名前が書かれていた。俺は手紙を拾いあげて目を通す。 ーロキへー 俺は毎晩、お前の体温を思い出しているよ。お前が復讐に囚われた俺を救ってくれたんだ。あの思い出があれば俺は生きていける。どうかお前も俺を忘れないでほしい。 ーグリシャよりー 手紙からは、微かに金木犀の香りがした。かつて俺を捉えたその香りは彼をあの広く冷たい王宮に縛りつけているのだ。忘れるものか。俺はグリシャと抱き合ったときに感じた、彼の本当の香りと体温を思い出した。

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