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第38話
テオと落ち合う約束をしていた木のうろへ向かうと、そこにはグリシャが座っていた。
俯いていて顔がよく見えないが怪我なそうだ。
側にはテオが横たわっている。
グリシャは怪我をしていないからこの空間に広がる鉄臭い匂いは全てテオの血だろう。
体の呼吸による上下の動きを見受けられないから既に死んでしまったようだ。
それでも、脈を確認するためにテオの首筋に触れた。
そこはぴくりとも動かず、代わりに指先に死んだもの特有の冷たさが伝わる。
ただ冷えただけではない内側の温かさすら感じない冷たさだ。
せめても救いは満ち足りた顔をしていることだろう。
きっと死ぬ前にグリシャと和解できたのだ。
俺は亡くなった親友の手を握り呟く。
「テオ、俺の我儘に付き合ってくれてありがとう。お前は俺の親友だ。」
震えた声がうろに木霊する。
他にも涙を啜る音が聞こえていて、テオがどれほど慕われていたかがわかった。
せめて故郷に帰してやりたいと思い、テオを背負うとずしりと重さがのし掛かる。
だらんと垂れた手が俺の肩にあたり運びながら移動するのは不可能であるとわかった。
それでも何とかテオを連れて行こうと俺がしていると、グリシャの従者が無慈悲なことを言う。
「何をしんるだ。死体なんて担いでいたら追いつかれる。置いていけ。」
こいつの言うことは正しい、現に俺の足は重みで動きが鈍い。
けれどテオを置いていくなんて選択俺にはできない。
「こいつは俺の村の人間だ。だから故郷に帰してやりたい。俺が遅かったら置いていってかまわなきから運ばせてくれ。」
なんて無理な願いをいう。
頭ではわかっていても心が逃げるために最善の行動をさてはくれない。
他の仲間も同じ気持ちだから皆、テオの体を支える。
従者はそんな俺達を見捨てたように素早くグリシャに駆け寄る。
「グリシャ様、よくぞご無事で。さぁ、行きましょう。」
そう言って男が伸ばした手をグリシャはとらず、俺達の方へ向かってきた。
無表情で何を考えているかわからない。
テオはグリシャの母の死体を隠蔽工作した過去がある。
俺だけが事情を知っているからテオを庇うようにたつと、
「ロキ、短刀かしてくれ。」
その目には怒りも憎しみもなくただ先にいるテオだけを見つめていた。
俺はグリシャを信じて短刀を貸すと、ぷつりと音がして彼は短刀でテオの髪をひと束切った。
そしてテオの顔を見据えている。
「すまない。髪しか故郷に返せそうにない。せめてお前からもらった命を大切にするよ。」
近くにいた俺だけが聞こえる声で呟き、すぐに俺からテオを引き剥がして横たわらせた。
肩にかかっていた重みと背中に感じた冷たさがなくなる。
グリシャの言う通りだ。
テオが命をかけて守ってくれたグリシャを俺達のせいで危険に晒すなんてことはテオに向ける顔がない。
遠くから金属音と共に足音が聞こえてくる。
素早く手を合わせて、俺達は村へと向かった。
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