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【第一部】6
夏休みに入って、大会は目前だった。佐藤と二人で道場に向かう途中、三ツ谷が図書室でノートを広げて何かを書いているのを見かけた。佐藤が言った。
「なんか、締切が近いんだって」
小説の? と聞くと、佐藤は頷く。俺は視線を三ツ谷に戻した。真剣な表情だ。ペンがガリガリ動いていて、何かを必死に書いている。普段見ない表情だ。あいつ、ああいう顔もするんだな。
本当に本気なんだと俺は理解した。だけど俺は気に入らなかった。
じゃあなんであいつは俺たちの密着取材なんてしてるんだ。ほとんど毎日俺たちのとこにきて、俺たちの練習を観察してるんだ。
俺はむかついた。あの日、珍しく三ツ谷が反抗してきたことを思い出した。
――誉くんは、柔道くらいって言われて、元気出る?
「ばか野郎」
言葉が漏れた。
お前、本気なんだろ。やるならまじでやれよ。中途半端じゃ勝てねえぞ。世の中そんなに甘くねえんだ。
「あいつ、多分あとから来るのかな?」
横で言う佐藤を無視しながら、俺たちは道場に向かった。
大会も近いので、早くきた部員はウォームアップを始めている。俺は更衣室で着替えている部長を呼び出した。
「おお、どした」
「ちょっと相談が」
佐藤が隣でなんだろうと言う顔で俺を見ている。俺は言った。
「もう大会近いんで、部員だけで集中しましょうよ」
部長は、ん? という顔をしたあと、
「あ、ああ。取材の話か? でもあいつもだいぶ打ち解けてるし――」
「邪魔です」
はっきり言った。
「集中したいんで。あいつは来なくていいです」
お前そんな言い方、と言いかけた部長に、
「俺からもお願いしまーす」
横から佐藤も言う。俺は心の中でいいぞと声を出した。
「だけど、お前ら、」
「部長。大会直前ですよ」佐藤が被せる。「本当に大事なことを大事にしないと」
――まあ、確かになあ。
佐藤も俺も大会の成績は悪くない。だから部長は俺たちの話を無視できない。
部長は腕を組んで悩んだ。
「記事はなんとかなりますよ。ずっとなんかメモ取ってたし」
もう十分でしょ。俺が言った。佐藤が付け足す。
「それに最後に追い込んでいい成績残した方が、むしろ記事が盛り上がってあいつらも助かりますよ」
確かにな。そうだな。
――こうして、正式に三ツ谷を追い出すことになった。
だからその後道場に来た三ツ谷に、俺たちは立ちはだかって言った。
「大会直前だし、部員だけで集中するから」
「え」
「部外者は立ち入り禁止でーす」
え、え。
三ツ谷は慌てている。
「直前だから集中しないと。ね」
「そういうことだから」
俺たちが言うのを聞いた三ツ谷は少しうつむいて、考えてから、
「……うん、わかった。そうだね、邪魔しちゃ悪いよね」
顔を上げた。
「取材、協力ありがとう。いい記事にするね」
「楽しみにしてるからなぁ」
「最高の記事にしろよ」
三ツ谷は嬉しそうに笑って階段を降りていった。
背中を見送って、俺はせいせいした。ああこれで、あいつの顔を見ないで部活ができる。集中できる。
ふう! と勢いよく息を吐いた。佐藤が横で俺を見ていた。
「お前って」
「何」
結構、あいつのこと好きだよな。
そう言われた。俺は馬鹿なことを言っている佐藤を無視した。
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