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【第三部】5
「ごめんね、散らかってて」
ようやく入った三ツ谷の部屋は、確かに言う通り散らかっていた。
よく言えば生活感がある。というか、生活感しかない。
机の上には原稿の束、本棚には適当に突っ込まれた本がいっぱい、パソコンの画面には埃がついている。
まあ、俺が急に来たからだし。
というよりも、それがこいつがここで生きてるんだって感じで俺はすごく嬉しい。
「恥ずかしいなあ」
三ツ谷がマグカップに紅茶を注いで持ってきた。俺は座布団に座って小さいテーブルに置かれたそのマグカップを手に取った。
「誉くんがここにいるの、不思議な感じ」
三ツ谷が言った。
「もう会えないと思ってた」
「俺も。俺もそう思ってた」
ああ、でも三ツ谷がサイン会でもやったら押しかけてたかも。俺が冗談めかしてそう言うと、それもありだったかなあと三ツ谷は笑った。
どっちがよかった? と聞いた。
今来てくれて嬉しい。三ツ谷はそう言って、マグカップの紅茶を飲んだ。
俺は電源の落ちたテレビの画面を見た。俺と三ツ谷が隣に座っているのが、暗い画面に反射している。本当に三ツ谷が隣にいるんだと改めて思う。
「お前はちゃんとボートを降りたよ」
目の前の、三ツ谷の生活を見て言う。
「俺は、それをわかってる」
「……ありがとう」
「だから、これはお前のもの」
そう言って三ツ谷を抱きしめた。
「ありがたく受け取れ」
三ツ谷の手が、ゆっくりと俺の背後に回る。ちゃんと抱きしめてくれて俺は嬉しい。そのまま立ち上がって、三ツ谷もろともベッドにぼすっと寝転んだ。
「わ、わっ」
三ツ谷が声を漏らして、ベッドが普段と違う重さにびっくりして思い切り軋んだ。
三ツ谷のベッドは小さかった。体のでかい俺が乗ったから、三ツ谷の入るスペースなんてほとんどなかった。だから、俺は三ツ谷をきつく抱きしめた。体の中に、初めてちゃんと抱きしめた三ツ谷がいる。相変わらず小さい体だった。まるであのサメのぬいぐるみみたいだ。
「それは失礼だよ」
三ツ谷が笑う。ごめんごめん、そう言いながら三ツ谷を抱きしめる。三ツ谷がそこにいる、ちゃんとここにいることを確認する。
「誉、くん」
「なんだよ」
「いや、その」
すん、と三ツ谷が俺の胸元に鼻を寄せた。興奮で、においが強くなっているのかもしれない。
「あの日のにおい、だ」
鼻を離して、はぁと息を吐いた三ツ谷の顔はぽおっと赤くなっていて――俺の中の何かが爆発した。
「我慢できねえ」
ぐいっと三ツ谷を引き寄せる。抱き寄せて、キスをした。
絶対にもう離さない二度と離れない離してたまるか。獣みたいな呼吸をして三ツ谷を抱きしめて、三ツ谷の全身を感じたい。
不思議だ。俺はこいつが大嫌いだった。世界で一番くらいに。
なのに今、こんなに気持ちよくなっている。
不思議なもんだ。確かに、だったら運命なんてないのかもって思える。いや、逆に、これこそが運命なのか? だったら、運命ってなんなんだ? 必然も偶然もどうでもいい。俺は今、こいつと一緒にいて、こいつと一緒にいたい。
「ほまれ、くん」
三ツ谷が言った。また俺はがっつきすぎたかと思ったけど、三ツ谷は幸せそうに笑って、
「好きだよ」
そう言った。
足を絡めると、太ももに三ツ谷のそこが当たって、それはすでにガチガチに固くなっている。ズボンの上からでもしっかりと体積があって、どうやらずいぶん大きそうだった。
くそ、腐ってもαだな。
「ご、ごめん」
三ツ谷が謝る。謝られるのも腹が立つ。そもそも何に謝ってんだこいつは。
「ほまれ、くん」
言って、三ツ谷が俺を抱きしめる。その弱い力はきっと俺の百分の一くらいなのに、俺の百倍以上強く感じる。抗えない何かがある。俺を抱きしめて三ツ谷は言う。
「あったかいね」
「俺、体温高いから」
「そうなのかも。すごい、ほかほかしてる」
三ツ谷が俺を見て笑った。服の上からじゃない、直接体温を感じたくて、ベッドに座り直す。三ツ谷も俺の隣に座る。三ツ谷の服に手をかけると、三ツ谷は抵抗しなかった。そのまま服を引き上げて脱がせた。三ツ谷の体が顕になる。白くて細い体。その首筋を、ちらりと見た。そこにはやはり何ももうなかった。
俺は自分で脱いだ。部活とかで、人前で脱ぐのは慣れているはずなのに、変に緊張している自分に気がついた。ぐいと顔をシャツに通して、少しだけ乱暴に脱いだ。
三ツ谷はまじまじと俺の体を見て、
「すごい」
そう言った。まあ、鍛えてるから。
「かっこいい」
「小説に出していいぞ」
俺が冗談めかして言うと、
「うん、そうする」
三ツ谷は俺を見上げて、ゆっくりと顔を寄せてくる。俺たちはまたキスをして、違う体積を確かめ合うように互いを撫でて確認した。洋服越しじゃない、ぺたぺたとした肌の感触が背中を這って気持ちいい。三ツ谷の手が上がって、俺の両頬を撫でた。かたちを確認するみたいに、しっかりと。
「ほんとに誉くんだ」
「……そうだよ」
「ほんとに」
おでこをぶつけて、二人で見つめあった。三ツ谷は俺に抱きついて、俺の首筋に、鎖骨に、そして胸元にキスをして、ゆっくりと俺の胸に――その突起に吸い付いた。
その瞬間、変な声が出た。
呼吸がびっくりするくらいに荒くなって、体が大きく震えて、俺は思わず口元に手をやって呼吸を急いで整えた。手を当てないと声が勝手にどんどん漏れてしまいそうだった。三ツ谷の手がおずおずと俺の下のところに伸びて、下着越しに優しく触った。
「うぁ」
手が口から勝手に離れて声があふれた。
三ツ谷が俺の膝に乗っかって、正面から抱きしめ合う。三ツ谷が俺の背中に手を伸ばして、俺たちは抱きしめ合う。
三ツ谷の手がするっと動いて俺の頭に向かうとき、俺のうなじに触れて――
体が震えて、声が漏れた。
なんだ、なんだ、今の。
視界が一瞬真っ白になって何もわからなくなった。
「だ、大丈夫?」
三ツ谷が心配そうな顔で俺を覗いている。戻ってきた意識がしばらく自分のものだと思えなくて、俺は熱い呼吸をしていた。
「誉くん?」
俺はなんとか頷き返す。
「だいじょう、ぶだ。だいじょう、ぶ」
股間に、熱い何かが滴っている。パンツの中がぐしょぐしょだった。
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