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【第三部】6

 佐藤と久しぶりに会った。佐藤も俺も、たまたま実家に戻ってきていた。だから地元の小さな喫茶店で待ち合わせて、色々と話した。楓ちゃんとは順調らしい。何よりだ。大学はどうだよ、と聞くと、勉強がむずいと言う。こんなんならもっとちゃんと勉強しておけばよかった、と言うので、まだ間に合うだろと言っておいた。  俺が三ツ谷に会ったと話すと、佐藤はとても喜んだ。 「よかったなあ」  で、なんか進展あったか? まさかただ会っただけじゃないだろ?  佐藤が冷やかすように聞いてきて、俺は頷いた。俺は経緯を簡単に話す。  それを聞いた佐藤は背もたれに寄りかかって、深く息を吐いた。  よかった。  安心したように、もう一度そう言った。それは本当に安心した声で、あ、やばい泣きそうだと思った。でも恥ずかしいから我慢する。まばたきして、鼻をこすって誤魔化した。多分ばれてたと思うけど、ばれてないと思うことにする。 「今度、三人で会おう」  佐藤が言った。ノロケ話、色々聞かせろよ。 「おう」  三ツ谷も大歓迎だろう。  そういえば、そろそろ大会がある。柔道を続けている佐藤に出場するのかと聞くと、もちろんと答えが返ってきた。俺もそこには出場予定だ。 「きっと三ツ谷も応援に来ると思う。帰りに一緒に――ああ、でも大学のやつらと打ち上げとかか」 「いいよ。その日は三人でご飯食べよう」  最近全然ちゃんと話せてなかったし。三ツ谷にもちゃんと会いたいし。  佐藤が言った。俺は頷いた。  遅くなる前に佐藤と店を出た。分かれ道で背中を見送る。まだ薄着の佐藤の後ろ姿、うなじが綺麗に見えていた。佐藤の首は鍛えられて綺麗に太くて、うなじは滑走路みたいにまっすぐだった。あまり見たことはないけれど、俺もきっとあんなうなじをしてるんだろう。その、自分のうなじを触った。いくら触っても、ただちょっとくすぐったいだけだ。でも、その肌の奥深くに、甘くやわらかな痺れがある。  あの日から、ずっと。  俺は求めている。三ツ谷に、ここを噛んでほしい。俺はあいつと番になりたい。  でもきっと、それは望むべきじゃないんだろう。  だって俺たちは『例外』になるって決めたから。だからきっと、それは望んじゃいけないんだ。俺たちはそれを我慢しないといけない。だって、じゃないと俺たちは『例外』になれないから。  でも、本当にそうなんだろうか。  そのことを佐藤に相談したかった。佐藤が一番事情を分かっている。でも、できなかった。  だって、佐藤はβだから。  佐藤を信用してないわけじゃない。疑っているわけじゃない。でも、もしかしたらわかってもらえないかもと思ってしまった。俺たちのことをわからないと言われるのが怖かった。お前は俺たちがわかってないなと思いたくなかった。俺にとって佐藤は大切な存在だから。だから、それを言わずにそのままにした。  俺は、俺たちはこれからこういうことをいっぱい越えなきゃいけないんだろう。佐藤の背中が角を曲がって見えなくなった。顔を上げると、やたらに月がでかかった。  スマホが震えて、三ツ谷からのメッセージだった。  ――今夜は月が大きいね  それだけで少し元気が出た。あいつもきっと、俺と同じ気持ちでいてくれているのだから。だから俺たちは大丈夫。  俺たちは、番にならなくていい。

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