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【第三部】7
俺の一人暮らしの部屋に三ツ谷が来ることになった。俺の汚い部屋は期間限定でぴかぴかになった。何日持つかなと自分で思う。
三ツ谷を駅に迎えに行って、そのまま二人で食材を買い出して、一緒に飯を作った。三ツ谷は手際が良くて、どんくさかった印象が全然ない。
「相変わらず失礼だね」
三ツ谷は言いながら笑った。
三ツ谷は俺のベッドの上にいるサメに「久しぶりだなあ」と挨拶していた。
二人で初めて作った飯はおいしかった。実際ほとんど三ツ谷が作った。俺たちはいつものように、つらつらといろんなことを喋った。大学での研究のことや将来の進路とかの堅苦しいことや、三ツ谷が今後どんな作品を書きたいか、売り上げがどうとか、そして次に一緒にどこに行くか、どんなことがしたいか。
皿を片付けて、二人で缶の酒を飲んだ。隣に座った三ツ谷は俺の肩に頭を傾ける。
「嬉しいなあ」
ぽろっと漏れたその言葉が俺も嬉しくて、三ツ谷の体を抱き寄せた。しばらくそうしていた。それだけで十分だった。
三ツ谷がゆっくり手をこちらに寄せてきて俺はそれを掴んだ。マッサージするみたいにリズムをつけて揉んでいると、三ツ谷が笑った。
「なんか、くすぐったい」
「気持ちいいだろ?」
「そうだね、なんか、落ち着く」
「両手やってやるよ」
向き合って、両手を繋いで、俺がふにふにと揉んだ。三ツ谷はずいぶん顔が赤くて、酔っ払っているのかな、と思ったら、ズボンがばつんと突っ張っていた。俺が見ていることに気づいて三ツ谷は慌てて手を離してそこを隠して、
「ごめん、なんか、……たっちゃって」
ごめん、ごめんね。
三ツ谷が言うので、
「なんで謝るんだよ」
俺はそう言って三ツ谷にのしかかって、
「俺は嬉しいのに」
そう言った。三ツ谷を倒したまま、俺はゆっくりと三ツ谷のズボンを下ろした。
現れたものは、確かに想像よりも大きかった。俺はじっとそれを見た。
意を決して、俺もズボンを、そしてパンツを脱ぎ捨てた。意味がわかった三ツ谷が尋ねる。
「え、ほ、ほんとに、いいの?」
甘く見んなよ。こっちは準備万端なんだからな。家に呼んでる時点で覚悟はできてんだよ。
俺はローションやらゴムやらを取り出して言った。
「すごいこと、言うね……」
引かれたのかと思ったけれど、逆だったようだ。
「僕も、嬉しい」
三ツ谷はそう言って俺に抱きついた。
俺は中に三ツ谷を感じていた。向き合って、三ツ谷は俺の中に入ったまま、俺の両足を押さえて何度も訊いてきた。
本当に大丈夫? 苦しくない? 気持ちいい?
そんなに心配しなくていい。俺は大丈夫。
知ってるだろ、俺、強いんだよ。
それに、言わなかったけれどすごく気持ちよかった。
「そうだった」
三ツ谷は笑った。
「誉は強いもんね」
そうだ、俺は強い。だから俺は、きっとお前がいなくなっても大丈夫なんだ。大丈夫になるんだ。どうして今そう思ったんだろう。今そんなことを考えてしまうんだろう。きっと、今すごく幸せで、ずっと、そう思っていたからだ。
「お前の方が、強い」
俺は言った。こいつは、誰よりも強い男だ。俺よりも、何倍も。
こいつは約束を守る男だ。そして、ちゃんと手放す勇気がある男だ。
俺は三ツ谷を抱き寄せた。唇を重ねて、中に入っている三ツ谷をしっかりと感じた。
だからこいつは俺をいつか手放すかもしれない。決意して俺を切り離す日が来るかもしれない。こいつの人生に俺がいらない日が来るかもしれない。そう考えて、ずっとすごく怖かった。
だから、番になりたいと言わないようにしていた。
俺はずっと一緒にいたかったけれど、ずっと一緒にいなければならない存在になりたくなかった。
あくまでそれは、こいつにちゃんと選んで欲しかった。こいつがいつでもそれを選べるようにしておきたかった。
こいつが、いつでも俺をちゃんと捨てられるように。いらなくなったら、躊躇なく手放せるように。
結局、それが理由だ。
だから、番になりたくなかった。それは契約だから。
もちろんそれは、αからは自由に破棄できる契約だ。それでも、きっとあいつには重荷になる。だって三ツ谷は優しいから。
俺は泣きそうになって、絶対に泣かないと我慢する。今泣いたらダメだ。
だけど、俺を抱きしめる三ツ谷の優しく指がそこに触れて、俺の体がまた痺れた。意識が真っ白になって、意識がふわっと戻ってきて――浮遊感の中、たまらずに言ってしまった。
「噛んでくれ」
三ツ谷の動きが止まった。
三ツ谷の顔。あいつは、あれはどういう顔だ、ああ、泣きそうな顔だ。
――お願いだ。お願いだから。俺はずっとお前と一緒にいたい。
俺はその気持ちをお前に証明したい。
そして少なくとも今だけでも、今だけでいいからお前にもそう思ってほしい。そう思っていると俺に信じさせてほしい。
それだけで、俺は一生きっと生きていける。
三ツ谷は苦しそうな顔をした。そして言った。
「今だけ? 今だけでいい? ――ふざけんな」
三ツ谷は叫んだ。
「ばかにするな、僕が、どれだけ君を好きだか知らないで」
三ツ谷はちゃんと怒っていた。
――僕がどれだけ我慢しているか知らないんだ。本当は僕だって、本当に――。
「誉とずっと一緒にいたい」
絞り出すように、言った。
俺は思う。ああそうだ、こいつは我慢強い男だった。それも、最強に我慢強い。だからずっと我慢してくれてたのか。
空気の読めない、俺の大嫌いだった男。三ツ谷世界。俺の大好きな男。
俺は起き上がって三ツ谷を抱きしめた。俺の中から三ツ谷のそれが抜けたけど、今はそれより大事なことがあった。三ツ谷の頭を、髪の毛を撫でてじっと見つめた。三ツ谷も俺を見た。
三ツ谷はそのまま、体をもぞりと動かした。俺の膝に乗って背筋を伸ばして、俺の首の後ろにゆっくりと回り込んだ。
あ。
うなじに、やわらかな感触があって、ふっと奇妙に体から力が抜ける。三ツ谷が俺の前に周りこんで、正面から向き合った。三ツ谷はしっかり微笑んだ。
何も変わった気がしなかった。物語にあるみたいな劇的な何かは、俺には無かった。俺は首筋に手を回した。うなじが、暖かく熱を帯びていた。
そうか。何もないのは、もうそれを持っていたからだ。
「ありがとう」
俺は言った。嬉しかった。ただ、嬉しかった。
「よろしくね」
三ツ谷が言った。
「三ツ谷」
俺が呼びかける。三ツ谷は気がついたように、俺にうなじを差し出した。白くて綺麗なうなじだった。
「仕返し、な」
そう言って俺は三ツ谷のうなじを噛んだ。
あのときと違う、すごく優しく、ついばむみたいに甘噛みする。
三ツ谷はくすぐったそうに笑って、俺たちはそのままじゃれあった。
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