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第4話 先生、古典を教えてください

ヤバい!!  恐る恐る振り返ると、そこには廊下の端に寄せられた木製の机。  普段ないのに、なんでこんな所にあるんだよ?!  俺はむしゃくしゃしながら、素直に立ち上がった。隠れているところを見られるよりかは、普通に立っているところを見られる方がごまかしが利くと思ったのだ。  職員室の中にいる先生と窓越しにバチっと目が合う。  先生の瞳孔が大きくなるのが分かった。 「矢島……?」  先生が反省文を隠すように、その上に本を置く。  バレたのなら仕方ない。  俺は職員室のドアを開け、先生に向かって小さく頭を下げた。 「どうした?」  立ち上がった先生が俺に近づく。  今さっきまで、熱っぽい様子であったのに、既にその面影はなく、夢のような気さえした。  しかし、先生の乱れた髪が現実であることを物語っていた。 「……いや!あの、その~」  急すぎて何の言い訳も思いつかない。 「ん?」 「あ!そうだ!古典。去年先生に教えてもらった助動詞?っていうやつがよく分からなくて、教えてほしいなーって」  急いで作った用は、完成度が低すぎて、たどたどしい。  勉強嫌いの俺が、先生に質問しに行くってどんなバグだよ!しかも、古典!!  なんだか後ろめたくなり、うつむきながらそっと先生の様子を窺う。  数秒の沈黙。先生は何も話さず、ただ俺の様子をじっと見つめる。その目から何を考えているのか読むことは出来ない。  職員室の重々しい空気が俺の嘘をじりじりとあぶりだしていくような気がした。 「……古典。……助動詞」 「はい!そうです!」  俺は何度も首を振り、「これは真実です。信じてください」と目で訴える。  しかし、先生は片眉だけを吊り上げ、明らかに不審がっている。心なしかだんだん顔が怖くなっていっているような気もする。  体全体から冷汗がぶわっと出てきた。 「……どの助動詞だ?」 「え?」 「どの助動詞が分からない?」 「あー、えっと……。『なり』ですかね、多分」  なんとなく覚えていた助動詞を口に出す。  俺は文系科目が得意ではなく、特に先生の古典の授業では毎回、爆睡をかましている。そのため、そもそも古典の知識なんてゼロに近く、なんとか絞り出した、知っている助動詞が「なり」だけだったのだ。  今、この瞬間、古典の授業で寝ていたことを後悔すると思わなかったし……なんだよ「多分」って!!絶対最後の一言余計だっただろ!!  先生はそんな俺を見て、大きなため息をこぼした。もしかしたら、助動詞を思い出している時の俺の目の泳ぎ具合にあきれたのかもしれない。 「まずは授業中、寝ずにちゃんと話を聞くこと」 「……はい」 「あと……早く次の授業に行きなさい」 「へ?」 「10秒でチャイムが鳴る」

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