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第6話 ゴミ捨ての気まずさ 

   新学期が始まって1か月。    ようやく新しいクラスの雰囲気にも慣れ、連休明けの気だるさが教室に居座り始めた、5月の中旬のことだった。  5月にしては記録的な暑さのせいで、窓を開けても生暖かい風がカーテンを揺らすだけだ。 「矢島くん!!ごみ捨て、一緒に行ってもらってもいいかな?」  ホームルームが終わった直後、女子に声をかけられた。 「……田中さん、だよね?」 「うん。覚えててくれたんだ!!」  田中さんは顔をパッと輝かせると、両手で持つ、ごみ袋の端をぎゅっと握りしめた。少しだけ上目遣いになった瞳が嬉しそうに揺らいでいる。 「うん。同じクラスでしょ?覚えてるよ」 「嬉しい」  田中さんの色づいた頬がきゅっと上がる。  俺は田中さんが左手に引きずるようにして持つ、ごみ袋をつかんだ。 「重い方持つよ」 「いいの?ありがとう」  田中さんは大きな目を細め、お弁当の空の容器がたくさん入っているごみ袋を両手で抱える。  俺は溜まりに溜まった紙の束が入っている、重いごみ袋を両手で持ち上げた。 「……行こっか」 「うん」  田中さんとの距離感が分からないまま、教室を出て、人気のない校舎裏にあるごみ捨て場に向かう。  ごみが思った以上に重すぎるのもあるが、5月の湿った空気は、歩くたび、肌にシャツを張り付かせた。  首筋を伝う汗がくすぐったい。  しかし、それよりも俺を困らせたのは、田中さんと何を話せばいいのか全く分からないことだった。  ただただ……気まずすぎる!!  同じクラスになって、挨拶をする程度の仲ではあったが、それ以上ではない。  教室を出てから、俺達の間には沈黙しか漂っていなかった。  ごみ袋のカサカサという音がやけに大きく聞こえる。 「……あの、矢島くんってバスケ凄くうまいよね」  田中さんの細い声が沈黙を破る。 「いや、そこそこだよ」 「ううん!去年の体育大会で矢島くん、めっちゃシュート決めてたじゃん。かっこよかったよ」  田中さんが顔にかかった、肩までの髪の毛を耳にかける。 「あー……、あれはたまたま、運がよかっただけだよ」  俺は視線を泳がせ、左手で後頭部をガシガシと掻いた。褒められ慣れていないわけではないが、二人きりで、しかもこんなに真っすぐ言われると、どうにも居心地が悪い。 「運も実力のうちっていうでしょ?でも、あれは違うと思うな。矢島くんがバスケ部で頑張ってるの、よく見るよ。今日も部活?」 「うん」  田中さんの真っすぐな言葉にどう答えたらいいか分からず、適当に相づちを打つ。  自分でも気づかないうちに歩くスピードが上がっていたのかもしれない。いつの間にか、校舎裏の薄暗いごみ捨て場が目の前に迫っていた。 「着いたな」  両手で抱えていたごみ袋をよいしょ、と力を込めて、所定の場所に置く。  袋が破れなくて、よかった。  解放された腕は、いつもより重い気がした。 「矢島くん、ありがとう。ごめんね、部活あるのに手伝わせちゃって」 「いや、全然いいよ。困ったら、また言って」  身を翻し、一緒に教室に戻ろうとした時、田中さんが「あ、ちょっと待って」と声を上げた。

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