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第12話 ノートに書かれた好き
立ち上がらなくていいように、腕をめいいっぱい伸ばし拾う。かかっていた少しの砂ぼこりを手ではらった。
ここには一体、何が書かれているんだろう?
好奇心と期待から喉が鳴る。それでも、すぐに開こうとは思わなかった。
きっとこれを開くということは先生の秘密を知ることになる、そんな予感がしていたからだろうか。
表紙を掴む指が微かに震える。
戻れなくなる。
頭の中がガンガンと揺れ、ここには自分とノートしか存在しないような気がする。
でも、戻れなくていい。
俺は既に、戻れない段階に来ていた。
このノートを開けば、先生のあの表情も言動もなにもかも、正解が得られる。そう思ったら、見たくてたまらなくなった。
息を大きく吸い込み、そっと表紙をめくる。
ノートは、黒い端正な文字でびっしりと埋まっていた。ページをめくっていくとそこにはバスケのルールや進行方法などの基礎知識、怪我の手当の仕方など、部活に役立つ沢山の情報でいっぱいだった。
こんなに調べてくれてたんだ。
ページをめくればめくるほど、先生の真面目さと不器用な優しさに触れ、温かいものが溢れていく。
俺は先生のことが嫌いだ。いつも細かくて、うるさくて、困らせてくる。
しかし、バスケを、俺のことを知ろうとしてくれる熱心さが『攻略』という名の指導から来ているのだと思うと胸が締めつけられた。嫌いなはずの先生が俺のことを嫌っているという事実が、一層自分を苦しめた。
こんなもの見なければ良かった。優しさに触れるたび、あの冷たい瞳で拒絶されるのが何倍も辛くなる。
ノートを閉じようと高速でバラバラとめくっていく。すると、最後の方に『矢島侑李』と見出しのあるページを見つけてしまった。
そのページは一言で表すのなら“異常”だった。きっと何かが書かれていたのであろう部分は真っ黒に塗りつぶされている。
俺はその中で読める部分を必死に探していった。
「これって」
今日書かれたものだろうか?唯一読めた部分をそっと指で触れる。それは乱れた文字だった。
『今日もネクタイが乱れていた。直せて良かった。世話を焼きすぎているのがバレていないだろうか?普通に接したい』
『バスケをしている時はよく笑う。よく跳ぶ。素直だ。こんな矢島を引き出せないのが悔しい』
『ずっと見ていたくなる』
最後の一文の横には、修正テープが引かれている。
俺はその部分をページの反対から見ようと試みた。
時計のカチカチという音がやけに大きく響く。
『好きだ』
隠された文字を見つけた瞬間、心臓がドキンと跳ね、ノートを閉じた。
え、そんなことあるはずないよな?
自分にとって都合のいい幻覚を作り出していると思われて仕方なかった。
もう一度、確かめるだけだ。
再びノートを開こうとした時、運悪く、部室のドアが開かれた。
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