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第14話 先生、俺見てません!
「……あっ」
指先に残ったのは、紙の感触ではなく、空気を切る鋭い痛みだった。
ひったくられる、そんな表現ですら生ぬるい。先生の手は俺の存在を拒絶するかのように、そのノートを奪った。
少し前まで、先生の不器用な優しさに触れ温かった胸も『好きだ』という言葉に触れた時の熱さも、みるみるうちに冷え切っていく。
「……見、たのか?」
先生の声は地を這うように低く、掠れていた。眉間に深いしわを刻み、唇が白くなるほど噛みしめた男が俺を鋭い目つきで睨みつけている。
「いえ、いいえ。見てないです。先生が何かを探しているように見えて、それで、俺!下見たらあったから……」
思いっきり首を振って、否定する。
見たことがバレたら、とんでもないことになる!!考える必要がないほど、明白だった。
自信がなくなっていき、声がだんだん小さくなっていく。
「そうか。すまない。ありがとう」
先生の「すまない」という言葉は安堵から出た言葉ではない。俺を信じたわけでもない。それは、これ以上この話題に触れるな、という冷徹なシャッターの音だった。
先生は奪い取ったノートをペラペラとめくる。そして、ジャージのポケットに無理やり突っ込むと、震える手で再びテーピングを掴んだ。
「続きをする。動いてはいけない」
先生の氷のように冷たい指が、俺の足首にそっと触れる。
さっきノートで見た『ずっと見ていたくなる』なんて言葉、ただの見間違いだったような気がしてならない。なぜなら、今の先生は俺の顔を一度たりとも、1秒たりとも、見ようとしない。
「先生」
これは賭けだ。勝ち目のない賭け。
きっと拒絶されるだろう。考えるだけで胸がぎゅっと収縮し、傷んだ。それでも、リスクがあったとしても、先生に見て欲しかった。
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