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第16話 補習確定の点数

「これで古典の授業を終了する。小テストが10点以下の者は放課後に補習を行う。必ず参加するように」  教卓に立つ先生の視線が確実に俺の姿を捉える。  視線が絡み合った瞬間、あまりの恐ろしさに喉が鳴り、手をぎゅっと握った。  今日は、帰れないかもしれない。  そう思う要因は机の上の裏返された、たった1枚のプリントだった。  「起立」  委員長の号令に合わせて席を立ち、礼をする。  授業が終わり、喧騒で包まれる教室。クラスメイト達はお互いにテストの点数を報告し合っている。  そんな中、誰にも見られないように、そっと机の上のテストを裏返した。  何度見ても、変わらない現実。これは、10点満点なのだろうか?赤いペンで大きく書かれた “8” という一桁の数字。だが、俺の目を奪ったのは点数だけではなかった。  答案用紙の大きな余白。そこには、俺の間違えた箇所についての解説がびっしりと書かれている。特に助動詞『なり』についてはこれでもか、というほど丁寧に活用表まで書かれていた。  どうすればサボれるだろうか?何とかして補習を回避したい俺は必死に適当な用事を作ろうと試みる。  やはり『今日はどうしても行かなければいけない部活がある』とか、部活についての用事ならバレにくい嘘がつけるだろうと思ったが、あいにくバスケ部の現在の顧問は先生だった。  完全に逃げ場がないことに今更ながら気づく。 「……俺、順調に『攻略』されてるじゃん」  もう完全に治った右足首が、未だに先生の手の感触を覚えている。あの部室で見たノートの『ずっと見ていたくなる』という一文を思い出し、たまらなくなって答案用紙を机の中に突っ込んだ。 「何点だった?」 「びっくりしたー」  答案用紙を片手に、ニヤニヤした拓海がすっと俺の前に現れる。この笑顔は、きっと俺に勝っていることを確信しているに違いない。 「お前は?」 「俺はねー……ジャーン!!」  警察官が提示する捜査令状のように堂々と開かれた答案用紙。そこには“30”という数字が名前の横に大きく書かれていた。  これで完全に希望が絶たれた。同じ補習仲間だと思っていたのに。 「俺って、やっぱ天才なのかな~?50点中、30点だよ!!」  褒めてほしそうに、丸い大きなきゅるきゅるとした目が俺を見つめる。 「凄いな。これ結構難しかったのに」 「まぁ、理系の俺達からしたら難しかったよね。でも、平均点も30点くらいだし、誰も補習なんて引っかかってないよ」  拓海はきっと悪気はないのだろう。「侑李は何点?」と興味津々に俺の答案用紙を求めてくる。  からかってきそうだし、正直、見せたくないが、仕方ない。ここは素直に見せて、拓海と策を練るしかない。  机の中からそっと取り出し、点数が見えるように置いた。   

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