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第17話 先輩の噂なんだけど

「え?」  いかにも困惑している拓海の瞳が申し訳なさそうに俺を捉える。  ここはいつもの明るさで笑ってくれよ!!  俺は落ち込んでいないことを示すために、拓海の肩を思いっきり揺さぶった。 「やっぱり古典、いや国語苦手すぎる!どうしたら、補習サボれる?拓海、一緒に考えてくれよ~!」  俺にされるがままの拓海は、「ちっちっち」と人差し指を左右に揺らした。 「侑李。モッチーの補習は、絶対にサボれないと思った方がいいよ」 「え、なんで?」  情報通の拓海は声を潜め、周囲を警戒するように俺の耳元へ顔を寄せた。 「……これは去年卒業した先輩の噂なんだけど、その先輩は、凄い度胸の持ち主でね、モッチーの補習を何も報告せずにばっくれたんだ。そしたら翌日、とんでもなく長い説教の後にワンツーマンの指導が放課後、一週間も続いたんだって。俺だったら、モッチーと2人きりなんて絶対無理!耐えられないよ~」 「マジか」  背筋に冷たいものが走る。  間違えるたびに、『こんな簡単な問題も分からないのか』とまるでごみを見るかのように視界に入れられると思うと、既に気が重い。重すぎる。 「ていうか、侑李の答案凄いね。真っ赤じゃん」  拓海が机の上に置いた答案用紙と俺のを比べる。そうすると、俺の答案用紙の異常さがより引き立った。  拓海の答案には、間違えた箇所の横に答えが小さく書いてあるだけ。俺のからは、圧と熱量が感じ取れた。 「俺、これ帰れる?」 「……無理かも」  普段ポジティブなことばかり言う拓海でさえ、俺に明るい言葉をかけられないようだ。 「大事な部活があります、とか言って逃げようと思ったけど、ダメそうだな」 「うん。侑李、完全にロックオンされてる」  拓海は「ご愁傷さまです」と手を合わせる。 「じゃあ、もうチャイム鳴るから戻るわ」 「おっけい」  拓海はもう一度「南無阿弥」と手を合わせる。そして、自分の答案用紙を手にくるくると回りながら、去っていった。  残されたのは机につっぷす俺と、8点の答案用紙。  校内に重々しいチャイムの音が響き渡る。  あと何回、このチャイムが鳴れば補習が始まる?  執行猶予の終わりを告げる音は正確に鳴り響き、決して俺を待ってはくれない。    

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