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第19話 どうしたいんですか?
その声は酷く小さく掠れていた。自分でも先生にこんなことを言うなんて信じられなかった。
先生の眼鏡を外した目が逃げ場を失ったように一瞬だけ揺れ、俺の視線を真っ向から受け止める。
「生徒を見守るのは教師の義務だ」
なんだか期待外れの返答。いつもなら、ここで引き返すだろうが、今日の俺は違っていた。1年前では考えられないほど先生のことを知っている。先生の抱える秘密の核心に迫っている。
先生の答案用紙の上で動く手を上から包み込む。親指で手の甲をなぞると先生はピクリと肩を揺らした。
「でも先生。他の人の答案にはこんなに解説書いてなかったですよ。拓海のは普通に丸付けだけだったし」
畳みかける俺に追い詰められ、先生の喉ぼとけが大きく上下する。居心地が悪そうに目をそらされた。
「……それはあまりにも出来が酷かったからだ。お前
は基本的なことを何も理解していない」
先生の耳、冷たい手がみるみるうちに赤く染まっていく。手を引こうとする先生が動けないように指を絡めた。
もっと触れていたいと思ってしまった。
「部活の時だって、誰も気づかなかった怪我に先生だけが気づいてくれて。それって俺のことを1年の頃から気にかけてくれてたからじゃないんですか?」
先生はすぐには答えなかった。ただ、絡められた指先を、忌々しそうに、けれど振り払えない矛盾を抱えた目で見つめていた。カチ、カチと壁の時計が秒針を刻む音だけが、準備室の静寂を際立たせる。
「……離しなさい。矢島」
先生の声は、もう教師のものではない。あの新学期の職員室で聞いた声と同じだった。
先生の細くつり上がった目が俺を睨みつける。その目じりは赤く染まっていた。
「先生は俺をどうしたいんですか?『攻略』?」
俺はわざと顔を近づけ、逃げ場のない先生の顔を覗き込む。
先生の息が止まったのが分かった。まばたきの回数も増え、視線が定まらない。
俺のためにノートを書き、ネットで調べ、俺をどうにかしようと必死だった先生が今、俺に支配されようとしている。その事実が俺を高揚させた。
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