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第25話 もういい。
「立てるか?」
先生が三人に手を差し伸べ、一人ずつ立ち上がらせていく。
俺が殴った男は、赤くなった頬を抑えながら、震える人差し指を真っすぐ俺に向けた。
「あいつが、あいつがやったんです。俺達、ただここに居ただけなのに、急に絡まれて」
ずいぶん演技が上手いことだ。
嘘をつらつら口に出しながら、挙句の果てに、肩を上下に揺らし、怯えているふりもやってのける。
本当は勝ちを確信しているのが丸わかりだ。
反論をしようと口を開くが、それが声となることはない。
「そうなのか?」
先生に真っすぐ見つめられると、何も言葉が出なかった。
未だに震える拳を反対の手でそっと包み込む。
先生なら分かってくれるはずだ。
そう思ったのに声が出なかった。
どこかで、自分ではない、相手の主張を信じる気がした。
俺じゃなかったら。そう思ったら喉が塞がった。
視線に耐え切れず、そっと目をそらす。
先生のため息がすぐそばで聞こえたようだった。
「三人は保健室へ。担任には私が伝える」
「はい」
三人は肩を寄せ合うように歩いていく。
先生はジャージのポケットからスマートフォンを取り出し、相手の担任である赤城先生に電話をかける。そして、先生の視点が、最後に俺に落ちた。
「矢島。来なさい」
うなずくことしか出来なかった。
先生は一言も発さず、廊下を進む。
いつもより足音がやけに響いた。
渡り廊下を抜け、別棟の空き教室の前で立ち止まる。
重い引き戸を開けると、窓からの光でほこりが舞っているのが見えた。
教室の中には大きな机が真ん中に置いてあり、その周りに沢山の椅子がそれを囲むかのように置かれてある。
俺は先生が座る椅子から一個空けて、腰を下ろした。
先生は机に手をついたまま、何も言わない。
外の音が遮断され、ここだけが現実世界から切り離されているように思えてならなかった。
「痛いか?」
先生の手がためらいがちに俺の頬に伸びる。しかし、それが届くことはなかった。空中で止まり、机の上に戻される。
俺は視線を落としたまま、首を横に振った。
「大丈夫です」
嘘だ。
殴られた頬よりも、胸のほうがずっと痛かった。
「……殴った理由は?」
問いは静かだった。責める声でもない。それは一切の感情を排したものだった。だから、余計に苦しい。
「俺は、俺は!」
口が震えて言葉が上手く出ない。
なんで今なんだよ。
膝の上で握った手はみるみるうちに白く染まっていった。
「分かった。分かったから、もういい」
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