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第26話 信じますか?
先生は机に肘をつき、おでこに手を当てる。
「お前が理由もなく手を出すとは思っていない」
姿勢はそのまま。冷たい瞳が俺を捉えた。
「だが、私は教師だ」
魂がこもった強い言葉。この言葉に全てが詰まっているようだった。
「先生は、俺じゃなければ、信じていましたか?」
その声は限りなく細く、揺れていた。
先生を一瞬でも視界に入れることが出来ない。入るのは、自分の震える手と足だけだった。
「……関係ない」
即答のようで、わずかに間がある声。
「関係ないわけないですよ。俺だから疑われる」
黒い感情が、口からぼろぼろと零れ落ちる。拾ってほしいわけじゃない。ただ、止められなかった。
こんなの八つ当たりに等しい。
まるで先生を責めているようだった。
「矢島。こっちを向きなさい」
拒むことが出来ない、強制力のある低い声。
俺はそっと落ちていた視点を拾い上げた。
「それは違う。私はお前を疑っているわけではない。矢島だから疑っていない」
「え?」
先生から目をそらせない。
「お前がやったことは間違いだ。なにがあっても人に手を出してはいけない」
俺は小さく首を縦に振った。口が震え、返事さえも声にならなかった。
「だが、それと信じることは別だ」
その瞬間、時が止まったようだった。
特別じゃなくていい。嫌われていてもいい。今は『信じている』、その言葉で十分だった。
視界が少しずつ滲んでいく。頬を伝う前にそれを拭った。
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
先生はそんな俺を見て、くすっと息を漏らした。
「安心しなさい。私がいけないことはいけないと叱る」
俺を見て微笑む先生は、光って見えた。
「先生って、俺のこと」
嫌いじゃないんですか?
恐る恐る口にしようとした時、教室の扉がガラガラと開かれた。
「望月先生。お待たせしました」
手にパソコンを抱えた、三人の担任である赤城先生が教室に入ってくる。その後ろには、伏し目がちな三人が続いた。
「いえ。どうぞ座ってください」
「ありがとうございます」
俺と先生の目の前に彼らは腰を下ろした。
先生は立ったかと思うと、俺のすぐ隣に座りなおす。
それだけで頼もしかった。
先生の腕が、ほんの少しだけ俺に近づく。
赤城先生は、一拍置いて話し出した。
「……絡まれていた生徒から事情は聞いている」
「は?」
三人は目を見開き、微動だにしない。心なしか、小さく見えた。
「絡まれていた生徒は、矢島くんに助けてもらったと。それと、最初に手を出したのはうちの生徒だったと聞きました」
赤城先生がじろりと鋭い視線を三人に向ける。
「ち、違います」
「俺たちは何もしてません。あいつが、あいつがやったんです!」
二人は何を言っているのか分からないほど、小さな声でごにょごにょと口を動かす。
一人は机に前のめりになり、俺に人差し指を向けた。
ずっと言われっぱなしなのにも関わらず、怒りより、言い返せない悔しさが上回る。
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