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第27話 彼をずっと見てきた

「俺は」  発した言葉は、誰にも届かない。いや、先生だけには届いていた。  先生は俺の肩にそっと触れると、椅子から立ち上がった。 「私は矢島が卑怯なことをする生徒だとは思っていません」  それは先生にしては珍しく熱が入っている声だった。  全員の視線がただ一人に集まる。 「彼は確かに小さな校則は守らない。授業は毎回寝る。素行はお世辞抜きでもいいとは言えない。だが、弱い者を見て見ぬふりをする生徒ではない。それだけは、担任として断言できます。彼をずっと見てきた私だから断言できます」  先生がこんなことを言うなんて信じられなかった。  俺もそっと席を立つ。  俺には頼もしい味方がいる。確かに、信じてくれる人がいる。それだけで勇気づけられた。 「俺は絡まれている人がいたので庇いました。そしたら、先に殴られて。だから……俺も殴りました。すいませんでした」  三人に向かって頭を下げる。  正直、納得できないことが沢山あった。だけど、”殴る”、この行為が悪いことであるのは間違いなかった。 「暴力はいけない。だが、目を逸らさなかったことは否定しない。よくやった」  それは褒めているにはふさわしくない、ぶっきらぼうな口調だった。  先生をじっと見つめるが、目が合うことはない。  先生が座るのと、ほぼ同じタイミングで腰を下ろした。 「望月先生と矢島くんの話は分かりました。事実確認はまた改めて行います。ですが、三人の話と食い違っているのは事実です。嘘はつかないように」  赤城先生は最後の言葉を強調して席を立つ。三人もそれに続き教室から出る。その途中に俺を睨みつけた。  教室を一気に静寂が包み込む。  先生は俺の隣で何も言葉を発しなかった。 「あの、ありがとうございました」  前を見たまま、頭をこくりと下げる。  前の俺なら、先生がかばってくれるなんて一切信じられないだろう。  先生の言葉が胸の奥できらめきを放つ。  ずっと握っていた拳をそっと開いた。 「私は事実を言っただけだ」  先生は立ち上がり、扉の方へ歩いていく。距離はどんどん開いていった。

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