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第29話 体育祭スタート
「本校の体育祭はありがたいことに今回で九十回目を迎え、」
マイクに向かって、全生徒の前で話す校長先生の長い話が秋の空に吸い込まれていく。
「校長先生の話、長すぎじゃね?」
「それな。覚悟してたけど、今年のはやばいわ」
校長先生の話もかれこれ十分は続いており、後ろの方からざわざわと文句の声が聞こえてくる。
俺も同じ体制で長時間座るのはしんどく、校長先生の話は右から左へ流れていった。
列の中で前を向きながら、無意識に視線を横へ流す。
テントの下。本部席。
青いジャージを着た先生が姿勢を崩すことなく、凛とした姿で立っている。長い間立っているのにも関わらず、一切揺れることがない。その表情は何を考えているのか分からない、いつもの無表情であった。
あの後、潔白はすぐに証明された。
絡まれていた生徒以外にも目撃者がおり、証言が一致したのだ。
けれど、俺が人に手を出した事実は消えない。
先生に大量の反省文を課されることになった。その量は今までの倍といっても過言ではなかった。
先生はその反省文にさえ、国語の先生らしく、赤ペンを入れた。
それを直すのは凄く大変で、夏休み終盤は毎日先生のもとへ通っていたことは記憶に新しい。
この反省文も保管されているのだろうか。
回収されたため、真実は分からない。
相手の方は一か月の自宅謹慎になったそうだ。
先生をぼーっと見つめていると目が合った気がした。
先生に向かって、口パクで「先生」と何度も呼んでみる。
そうすると、先生は下の方で小さく校長先生を指さした。
きっと話をちゃんと聞くように諭されているのだと思う。
嫌われていない。そのことが分かってから、俺はあらゆる口実を作っては積極的に先生に話しかけるようになっていた。どれだけしつこく絡んでも先生は嫌な顔を一切しない。そのことが俺にとっては物凄く嬉しかった。
でも、嫌われていない。信じられている。それだけで充分だったのに、救われたはずなのに。どうして俺はこれ以上を求めているのだろうか。もっとって。自分でも分からないのに。
「これで私の話を終わります」
やっと長い話が終わったようだ。
校長先生が一礼をすると、いつもより大きな拍手が送られる。
みんな疲れて拍手さえやけくそになっているのか、話が終わって嬉しいのか、もしくは両方だろう。
「プログラム一番は、部活動対抗リレーです。係の人は準備に取り掛かってください。競技に参加する人は三十分に入場門に集合してください」
その放送を合図に全生徒が、ぞろぞろと運動場から応援席へ移動する。
「侑李。早く行こ!涼しいとこ確保しないと」
小走りで後ろから近付いてきた拓海が俺の腕を掴む。その顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「ああ。行くか」
「うん。準備するときにとっておきの場所見つけたから、任せて」
拓海に半強制的に応援席に引っ張られていく。
とっておきの場所、それはテントの陰と木陰が重なる、薄暗い場所だった。
椅子を移動させて、そこに座る。風が吹くと太陽の下で火照った体が、一瞬で冷やされ、寒いくらいだった。
「どう?めっちゃよくない?」
拓海は袋の中から大量のお菓子を取り出し、膝の上に広げる。
俺はそこからおそらくいちご味の飴を手に取り、口の中に入れた。
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