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第31話 勝ってからいいなさい

「もうそれって約束じゃないんですか」 「了承はしていない」 「え、そうなんですか。先生」 「そういうことは勝ってからいいなさい」  先生は俺の額を軽く指で弾いた。それは叱る行為のはずなのに指先が不自然なくらい震えていた。 「部活動対抗リレーに出場する生徒は入場門に今すぐ集まってください」  集合を催促する放送が運動場中に鳴り響く。  校舎の表面についている大きな時計を確認すると長針は『六』に今にもかかりそうだった。 「先生。行ってきます」  先生に頭を下げて入場門に走って向かう。その途中に「見ててください」と言うと、先生は払うように手を動かしていたが、首は何度も縦に振られていた。  入場門には既に予選を勝ち抜いた五つの運動部が縦に並んでいる。  俺はアンカーで拓海はその一個前だ。  先陣を切る部長が、今日のために作ったゼッケンを配っていく。そのゼッケンはピンクや紫色が混じり合った奇抜な色をしており、大きな白い太文字でバスケ部と書かれている。新入部員を増やすための宣伝をついでに行うらしい。  バスケ部全員で円陣を組む。 「バスケ部いくぞー!」 「「おー!」」  みんなで円陣を組んだ後はいつも結束力が高まったような気がする。 「プログラム一番部活動対抗リレーです。出場者は入場門から入場してください」  放送部の合図と共に運動場へ入場する。  スタート地点の目の前にある本部をちらっと見るとそこには腕を組む先生が座っていた。しかも、本部席の前、一番レーンに近いところにだ。  ふっと笑みが零れる。  ちゃんと見てくれるんだ。約束、覚えてくれているかな。 「侑李。顔ゆるゆる」  前に並ぶ拓海に肩をつつかれる。 「別にゆるゆるじゃないし」  口角を下げるように下に引っ張ってみる。それでも、先生がいることを確認してはにやにやが抑えられなかった。  レーンにはそれぞれの部活の代表が並ぶ。やはり、一番の期待枠は陸上部だろうか。順番に並んだ時の歓声が違った。 「いちについて」  空気が張り詰める。  歓声もどこかに消えて、誰かの砂を踏む音と自分の心臓の音しか聞こえない。 「よーい」  ついに本番が始まる。  バスケ部一同で必死に練習した記憶が蘇る。  バンっ。  乾いた音と同時にレーンの部長の背中が遠ざかっていく。  男女の声が混じり、ぐちゃぐちゃになった歓声が波みたいに押し寄せる。  バトンが渡るたびに順位が変動していった。  やはり陸上部がダントツで速い。バスケ部はそれを追いかける二位だ。  拓海が懸命に腕を振り、差を縮めようと必死に走る。でも、その差は一向に縮まらない。

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