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第32話 言葉がなくても伝わる
「侑李、頼んだ!」
バトンが拓海の手から俺へ移る。
今出せる精一杯の力を込めて、地面を蹴る。
追いつけるか?
相手が陸上部にしてはよくこの差を保っていられたものだ。
風が耳を刺す。
足を動かすと、どんどん本部に近づいていった。
最後のカーブ、ここを走り抜ければ、ゴールテープはすぐ目の前。
だめだ。もう抜けない。
半分諦めかけ、足を動かす速度が落ちていく。
本部席をちらりと見ると、俺が走り出す前は座っていた先生が立っているのが見えた。その手が強く握られているのが見える。
こんなに応援してくれているのに。
必死になってバトンを渡してくれた人が居るのに。
絶対に諦めたらいけないと思った。
もう一度、足に力を入れて全力を出し切る。
陸上部が一番最初にテープを切り、俺もそれに続く。
結局、バスケ部は二位だった。
「侑李ー」
「やったー!!」
バスケ部のリレー出場者全員が俺の方へ走り、抱き着いてくる。
「一位取れませんでした」
抱き着かれたまま部長に言うと、部長は「何言ってるんだよ!」と俺の頭を叩いた。
これがまた結構痛い。
「バスケ部の歴代最高順位更新だぞ。俺ら三年がずっと更新したかった四位の壁をついに破った!」
三年生たちは腕を手に突き上げ、何度も腕を上下させる。
群衆の中心から、背伸びをして先生を探す。
本部席の前。
先生は腕を組んだまま立っていた。
でも、いつもの無表情ではない。
先生の口元がほんの少し緩む。秋の空気の中で静かに花が開くみたいに。
先生に見えるようにピースを誰よりも高く掲げる。
その瞬間、先生は小さく頷いた。
―ーよくやった。
声は聞こえない。
でも、確かにそう言われた気がした。
胸がじんと熱くなる。
一位になれなかった。
約束も果たせなかった。
それでも先生は見てくれていた。
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