39 / 44
第39話 話があります
『よくやった』
たったそれだけの言葉なのに息が詰まりそうになる。
嬉しい。頑張りが報われたようだった。まだ俺を見てくれていた。
でも、どうして直接言ってくれない?
教卓で話す先生をじっと見つめる。
ようやく気付いた。
俺はずっと寂しかったんだ。先生に避けられていたことも、前みたいに話せなくなったことも。俺を見てくれないことも。
先生が俺の前からいなくなるみたいで怖かった。
先生にとって俺が、ただの生徒になるのが怖かった。
嫌だ。俺は先生の特別がいい。
先生の秘密も優しさも小言も全部俺だけのものにしたい。
「帰りのホームルームは省略する。日が沈むのが早くなっている。気をつけて帰りなさい」
「起立」
委員長の号令に合わせて礼をする。
今すぐこの気持ちを先生に伝えたかった。
先生は出席簿を持って教室を出ていく。
俺もそれを追いかけようと廊下に出る。でも、あいにく廊下は人でごった返しており、簡単には追いつけない。
「ごめんなさい。すいませーん」
声をかけて必死に人の間を縫う。
職員室の前、人が少なくなった時にやっと声をかけることができた。
「先生」
先生の背中に向かって大きな声を出す。
先生の肩がピクリと揺れた。
「先生。話があります」
「なんだ?」
先生は声をかけてもなお振り返ってはくれない。
「体育祭のときのこと、です」
ブレザーの裾をぎゅっと握る。
無視されたとしても、絶対に伝えないといけない。
先生はやっと振り返って俺を見た。その顔から表情を読むことはできない。
「場所を変えよう」
先生は俺の返事さえも待たずに歩き出す。
俺も遅れてその背中を追いかけた。
廊下には放課後補習や部活に向かう生徒たちの声が残っていた。けれど、先生はそれを気にする様子もなく、まっすぐ前を見て歩いていく。
先生の背中はいつもより遠く感じた。
伝えたいことも沢山あるはずなのに、声をかけられる距離なのに、どうしても声が出なかった。
段々、廊下を通る人が少なくなっていき、足音だけが響き渡る。
先生は一度も振り返らない。
俺はそれについていくので必死だった。
やがて、先生は生徒指導室の前で足を止める。
ともだちにシェアしよう!

