40 / 44

第40話 先生のことが好きです

 先生の手が一瞬、ドアノブの上でためらいを見せたかと思えば、そのままかけられる。  生徒指導室に入ると先生は椅子には座らなかった。   机の横に立ったまま、俺をじっと見ている。  早く終わらしたい。この場にいたくない。  そんな雰囲気が感じ取れた。  俺は空気を肺いっぱいに吸い込み、両手をぐっと握りしめた。 「俺、体育祭の時、変なこと言いました。先生が俺のこと好きなんじゃないかと思って」  俺だけの声が響き渡る。  震える右手を左手で押さえた。 「先生、あれから俺のこと避けてますよね」  先生の目が痛みをこらえるように細くなる。 「俺それが凄く嫌でした。前は目を合わせてくれたし、くだらない話とか約束にも付き合ってくれて。今日だってテストに『よくやった』って書いてくれたじゃないですか?」  思い出した途端、息がこぼれた。 「先生にとっては、なんでもないことかもしれないけど、それだけで俺、凄く嬉しくて救われたような気になるんです」  先生は何も言わない。ただ、机の端に視線を落とした。 「でも、同時に思ったことがあります」  言葉が喉に引っかかる。  胸が痛いほど、脈打っていた。 「俺……こんなことになるなら、嫌われていた方がマシです。だって、諦められるから」  先生が顔を勢いよく上げる。久しぶりに視線が絡み合った。 「俺、先生のことが好きです。先生の特別になりたいです」  やっと伝えられた。  閉じた口は乾き、息が上がっているような感覚だった。  先生はすぐには答えない。ただ、俺を見たまま立ち尽くしている。そして、深く息を吐いた。

ともだちにシェアしよう!