41 / 44

第41話 それだけ

「……そういうことを言うな。私は教師でお前は生徒」  先生はただ一点をじっと見つめる。 「ただ、それだけだ」  その声は頼りなく揺れていた。  先生は生徒指導室から出ようとすぐそばにあるドアに手をかけようとする。  俺はその手を掴んで、自分の方に顔を向けさせた。  どうしても先生が俺を拒んでいるようには見えなかった。  先生の真っ赤な瞳から滴が落ちる。 「好きだったら、それでいいじゃないですか?俺は」  先生といたい、そう言おうとした時、先生は俺の手を物凄い力で振り払った。 「もう私を試さないでくれ!!」  先生の顔は苦しそうに歪んでいた。  先生は両手で涙を何度も拭う。それでも、次から次へと溢れてくる。 「好きならいい、それで済む問題ではない。私は……私は」  言葉が途中で途切れる。  先生は俯き、震える声で言った。 「お前を放っておけなくなる」  そこにもう普段の先生の姿はなかった。  先生はそれだけを言うと、俺から目を逸らしたまま、生徒指導室を出ていった。  ドアの閉まる音がやけに大きく響く。  俺は地べたに座り込んだまま、しばらく動けなかった。  先生の言葉が頭の中で何度も繰り返される。 『私はお前を放っておけなくなる』  まるで告白のようだった。  だけど、同時に拒絶された言葉でもあった。  先生が立っていた場所をじっと見つめる。  そこにはもう誰もいない。  胸がじんわりと痛んだ。  自分が何も考えずに口にした「好き」が先生をあんな顔にした。あんな声を出させた。  俺はただ気持ちを伝えれば、それだけで全てが上手くいくのだと思っていた。でも、ただ自分の気持ちをぶつけただけだった。先生の立場も、苦しさも、何も考えていなかった。  俺、最低だ。  目から零れる液体が床に染みを作る。  それでも、それでも、思ってしまう。諦められない。  先生のことがどうしようもなく好きだ。      

ともだちにシェアしよう!