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第43話 差し込む光 先生side
誰とも恋をせずに教師になった。ようやく普通に近づける気がした。
この聖域に入れば、規律という名の鎧を着ていれば、自分の中にある普通じゃない部分をもっと上手く誤魔化せるようになる。ずっと信じていた。
なのに、私の頑丈な鎧を剥ぎ取った生徒がいた。その生徒が矢島侑李だった。
初めて彼を見たときは、めんどくさそうな生徒だなと思った。
制服は着崩すし、いつも授業で寝ている。でも、怒鳴り散らかしたり、他の生徒に絡んだりはしない。
あからさまに反抗する生徒とは違うめんどくささが矢島にはあった。
ただそこにいるだけで周囲の空気をきらびやかなものに塗り替えてしまう、私にはないものを彼は持っていた。
それはただ正解を追い求めてきたのに闇に転落してしまった私に差し込んだ唯一の光だった。
私は羨ましかった。彼のように生きられたらどれだけ幸せだろうと何度も考えた。
だからこそ私は彼を正しい道に導こうとした。
彼の綻びを見つけるたびに指導し、書かせる必要のない反省文を何枚も書かせた。
きっと矢島に自分を投影していたのだと思う。
彼が間違った道を選択しないように、自分の言うことを聞かせるために、インターネットで馬鹿みたいなことを検索した。彼をずっと観察していた。
『攻略』という名前をつけて矢島を自分の管理下に置きたかった。
いや、違う。
私は矢島に見て欲しかった。
彼のための『攻略』はいつの間にか形を変え、自分のためになっていた。
私も彼の光に惹かれた一人だった。
結局、『攻略』されたのは私の方だ。
「最低だな……私は」
蛇口から滴る水が、洗面台に落ちる。
私の身勝手な『攻略』のせいで矢島をあんな顔にさせた。
胸元のスーツを握る手が強くなる。
まだ間に合う。彼だけはこちら側にこさせてはならない。
たとえ矢島が私を恨み、軽蔑し、忘れてしまったとしても、きらびやかな世界に帰さなければならない。
幸せになれないのは私だけでいい。
繋がってしまった世界を切り離してもとに戻るだけだ。
これが矢島をどうしょうもなく好きになってしまった私が果たすべき指導だ。
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