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第6話
正月には実家に帰省するため、俺はお世話になったマスターに挨拶をしに向かう。
今日はいつもより高い酒を飲もうと少し重いサイフをポッケに入れる。
「マスター、今年もありがとうございました。あなたのお陰でやってこれました。」
いつもはこんな風にマスターと喋らないので照れ臭い。
「何よかしこまって。最近、涙腺緩くなってるんだから、やめてよね。」
そう言ってマスターは涙を拭うフリをする。
その後、俺の頼んだ酒よりも高いお酒を
「速めのお年玉よ。」
なんて、言ってサービスしてくれた。
お礼をしたかったのに、逆にもらってしまった。
クリスマス、正月と行事続きのこの時期は、店にも楽しそうなムードが漂う。
常連達の孫自慢大会が催される。
そんな店の明るさの中に浮いて男がいた。
さっきから、1人で黙々と強い酒を飲み続けている。
「あの子、大丈夫かしら。」
世話好きなマスターは、暗い雰囲気を醸し出す男を心配そうにみつめる。
ただ忘年会の二次会やらでいつもより人が多いため、男に話かける暇はなさそうだ。
「俺が話きいてくるよ。」
「ミッくん、ありがとうね。私も落ち着いたら、すぐにいくわ。」
俺は水をもって、男の隣に座る。
「ご一緒してもいいですか。」
男が俺の声に顔をあげる。
大きな目を縁取る長いまつ毛、綺麗な鼻筋を持つ顔が向けられた。
俺のタイプど真ん中だ。
すでに何杯も強い酒を飲んでいたため、目はどろりと濁っている。
それに肌も白いから余計に赤くみえた。
「ええ、大丈夫ですよ。」
男に水を渡して、俺は尋ねる。
「何かあったんですか。俺でよければ話ききますよ。」
こんなイケメンが1人寂しく酒を飲んでいるには、理由があるはずだ。
俺の言葉に男はポツリ、ポツリと話しだす。
「僕、彼女に振られたんです。初めての彼女で大事にしたくて、手を繋ぐのにも一ヵ月もかけたんです。そしたら、彼女は僕の愛情を疑うようになって、昨日ついに『今、付き合って人がいるから別れて。』って言われちゃいました。情け無い話ですよね。」
男はへらりと笑った。
こんなに自分を思ってくれる彼と付き合えた彼女は幸せ者だったろうに。
恋人をとっかえひっかえのヒロとは大違いだ。
「それは辛かったですね。」
「はは、ありがとうございます。友達も俺に同情して慰めてくれたんです。でも、彼女のことを悪くいうから一緒にいるの辛くなっちゃて。酷い振られ方したのに、彼女のことがまだ好きだから恨めないんです。」
瞳は涙に濡れていた。
「好きだから恨めない」といって泣く彼の姿が俺に重なる。
ヒロに雑に扱われても、ヒロを好きな俺とこの人の苦しみは似てる。
「その気持ち、すごくわかります。」
「俺もどんだけ酷いことされても恨めない奴がいるんです。この前も女の子とやっててゴムが切れたからって買わされに行かされたんですよ。」
俺の話に彼は黙る。
引かれてしまったかもしれない。
すると、彼は潤んだ目を細めてわらった。
「ふふ、俺達似たもの同士ですね。」
「そうですね。はは。」
俺達はすっかり意気投合して話し込む。
気づいたら、店が閉まる時間になっていた。
「今日は楽しかったです。お兄さんのお陰で元気でました。ありがとうございます。」
イケメンは初めに見た時より明るい表情をしている。
酒に酔っているためか声がでかい。
「俺も楽しかったです。こちらこそ、ありがとうございました。」
すると、彼はおぼつかない手つきでスマホを鞄からとりだしていう。
「あの、もしよかったら連絡先、交換してください。」
俺も報われない恋をしてる仲間の彼とまた話たいと思っていた。
「俺も交換したかったです。いいですよ。」
交換した連絡先をみると志真と表示されていた。
名前も知らない同士だったのに、俺達は長いこと話していたんだな。
「ミツルさんて、いうでんですね。これからよろしくお願いします。」
「はい。俺もよろしくお願いします、シマさん。」
そう言って俺は家へ、シマさんは駅へと向かう。
数秒後、後ろから大声が聞こえた。
「え!!やばい終電ない、、。」
振り返ると情け無い顔をしたシマさんがいる。
「俺の家、きますか。」
「すみません。お邪魔します、、。」
さっきまで楽しそうだったシマさんは気まずそうな顔をしていた。
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