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第24話

「これ、おいしいですよ!」 目の前で満面の笑みを浮かべたシマさんがショートケーキを頬張る。 俺は甘いものはそんなに食べるほうじゃないし、むしろ少し苦手だったりする。 けどヒロとねてしまった罪悪感からシマさんとカフェに来ていた。 可愛らしい内装のこの店は女性客が多い。 男性もいるけどカップルできてる人だけだから、俺達は浮いていた。 それにシマさんはイケメンだから周りの視線を集めている。 なんだかいたたまれない気持ちがしていつもより背筋を伸ばす。 周りの注目に気づかないフリをして食べ進める。 店員さんにあまり甘くないと教えてもらったチーズケーキはさっぱりして食べやすい。 また食べにきてもいいかもなんて思っていた時だ。 「あれ、ミツル?」 後ろからの声に振り返ると今一番会いたくなかった男、ヒロがいた。 隣には新しい彼女。 デートで来ているらしくヒロの腕に抱きついている。 この間あんなに傷ついた顔をして俺を求めてきた癖に、もう新しい恋を始めているらしい。 また俺は選ばれなかった。 そんな気持ちが渦巻いて上手く言葉がでない。 「甘いの苦手なのにこういう店いるの珍しいね。」 なんてこと言うんだこいつは。 確かに甘いものは得意じゃないけどこのチーズケーキはおいしかった。 その言葉を聞いた途端にシマさんの幸せそうに下がっていた眉毛が別の意味で下がっていく。 「ミツルさんが甘いの苦手なのに、誘っちゃてすみません。」 俺の小さな嘘がこんな顔させてしまって申し訳ない。 急いで訂正しようと口を開く。 「いや、このチーズケーキは食べやすかったです。むしろ、誘ってくれてありがとうございます。」 それでもシマさんの表情は曇ったままだ。 こんな状況下なのにヒロは呑気に話に入ってくる。 自分が空気をぶち壊したなんて気づいてもいないみたいだ。 「ふーん、俺もチーズケーキにしようかな。」 なんてどうでもいいことしか言わない。 さらに、最悪なことに彼女も入ってきた。 「ヒロ、その人知り合い?」 「うん。俺の高校からの友達。」 高校からの友達なんてよく言う、高校からのセフレだろ。 心の中でヒロの発言を正す。 でも、そんなことは言えないから笑って返す。 「ミツルです。よろしくお願いします。」 無理に吊り上げた口角が痛い。 正直、速くどこかに行ってほしい。 なんとかやり過ごそうとしていたら、彼女の目線がシマさんに向けられる。 「え!てか、男の人2人でカフェとかおしゃれですね。」 なんでそんなこと言うんだ、どうでもいいだろ。 俺が言葉に詰まっているとシマさんが話してくれた。 「デートで来てるんです。」 「わー、なんかドラマみたいでいいですね。純愛って感じで。」 純粋で他人事な褒め言葉が俺を突き刺す。 何が純愛だ。 そもそも俺とシマさんが付き合ってるのは俺が襲ったからだし、君の隣の男も俺と寝てる。 そんな汚い感情が漏れでそうで黙ってしまう。 無言の俺をみかねたシマさんが 「ありがとうございます。お二人もお似合いですね。」 なんて当たり障りのないお世辞をいうと、 「ありがとうございます。」 と彼女は幸せそうな顔をして、ヒロと一緒に去っていった。 2人がいなくなっても俺の心はずっとザワザワしてる。 意味もなくテーブルクロスの皺を見つめていた。 すると、赤いものが目に飛び込んできた。 「ミツルさん、イチゴあげます。これならそんなに甘くないし。」 そう言ってシマさんはフォークに刺さった苺を俺に差し出している。 それはシマさんのお皿の上で大切そうに最後までとって置かれていた苺だ。 「いや、大丈夫ですよ。苺、好きなんですよね?食べてください。」 俺が遠慮しても、シマさんは引き下がらない。 依然として、苺は俺の口元にある。 苺の重みでフォークがわずかに震えている。 普段のデートでは、奥手なシマさんはこんなことはしない。 きっと、俺のためにと思って頑張ってくれているんだろう。 俺が中々食べようとしないでいると、 「確かに苺は好きです。でも、泣きそうな顔してるミツルさんを元気付けたくて。よかったら貰ってくれませんか。」 シマさんはそう言って真っ直ぐな目で俺を見つめくれる。 俺はヒロを忘れるために利用しているだけなのに、慰めようとしてくれるなんて優しい人だ。 その優しさが俺の罪悪感を加速させる。 それでも弱くて狡い俺は甘えて、促されるままに苺を食べた。 瞬間、甘酸っぱい味が口の中で弾ける。 そして次第に酸っぱさは消えて甘さだけが舌に残った。 きっと本当の恋はこんな味がするんだろうな。 爽やかで優しくてまるでシマさんみたいだ。 「元気でましたか。」 シマさんが俺を覗き込んで、瞳に映る俺は幸せそうだ。 それなのにさっきまで口に広がっていた味はもう消えていた。

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