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第27話

スマホの振動で目覚める。 でもなんとなく開く気になれなくて放置した。 疲れた玄関で眠ってしまったから体が痛い。 手首を見るとヒロに掴まれた痣がくっきりと残る。 今が冬でよかった、長袖を着るから隠せるだろう。 体を引きずりながら風呂場に向かった。 こんな状態で一限に出る気は起きないからサボってしまおう。 熱めのシャワーを浴びると体が傷んだ。 さっきは手首の痣しか見えなかったけど鏡には腰や肩なんかが変色したのが映っていた。 酷く惨めな姿をもう見たくなくて適当に体を洗って服を着る。 全身がだるくてやる気が起きないからネットニュースを流し見た。 特に面白いと思えることはないけど色々な情報を頭に詰め込む。 通知が画面上に表示されているから無視することもできなくて開く。 『おはよー』と兎が言っている可愛らしいスタンプがシマさんから送られていた。 カップルぽっいメッセージが照れくさい。 沈んでいた気持ちが少し軽くなった。 俺がもってるなかでなるべく可愛いスタンプを送ると、すぐに既読がつく。 「今週の土曜日空いてますか。ここ行きませんか。」 メッセージと共に送られてきたリンクを開くと定食屋だった。 生姜焼き、唐揚げなどのガッツリしたメニューに涎が口にたまる。 「いいですね!行きたいです。」 「よかったです!じゃあ、11時半に駅で待ち合わせていきましょう。」 再度、可愛いらしい兎のスタンプが『たのしみ』と言っている。 予定をスマホのスケジュールに追加して、なんとなく兎の絵文字をつけた。 3日後なら痣は薄くなっているかもしれない。 重い腰をあげて生乾きの髪を乾かす。 ヒロからの着信があったけどスワイプしてやった。 土曜日、駅に着くとシマさんがいた。 俺は待ち合わせの10分前に着くようにしたのにもういるなんて、どれくらい待たせたんだろう。 少し小走りで近づくと俺を見つけたシマさんが花が綻ぶみたいに微笑んだ。 「ミツルさん、こんにちは。」 「こんにちは。すみません、お待たせしちゃって」 「大丈夫ですよ。楽しみで速く着いちゃっただけなんで。」 そう言ってシマさんはするりと俺の手をとった。 奥手でなかなかスキンシップをしてこなかったシマさんの行動に俺の心臓は跳ねる。 ヒロよりは小さいけれど骨ばった男の手だ。 いつもより近い距離に戸惑う俺をシマさんは軽い足取りで連れていく。 定食屋に着くと休日でも働いてるサラリーマンや現場の人で賑わっていた。 彼らが店主の人との会話からみるに常連客だろう。 男だらけの空間は外よりも暑くて上着をもう少し薄手にすればよかったと後悔した。 3日も経てば消えると思っていた痣はまだ青く肌に残っている。 シマさんが上着をかけようとしてくれたのを寒いからと断る。 メニューを開くと生姜焼き定食、唐揚げ定食、トンテキなどの魅力的な料理に目を奪われる。 ただ量が多いから気になるもの全て食べるのは無理だろう。 メニューを見ながら唸っていると 「どれも美味しそうで迷いますね。わけっこしませんか。」 なんて素晴らしい提案をシマさんがしてくれた。 俺は二つ返事でOKした。 シマさんは唐揚げ定食を俺は生姜焼き定食を頼む。 揚げ物だから唐揚げは時間がかかると思っていたがすぐに出される。 山盛りの白米と茶色のおかずが湯気を上げている。 「「いただきます。」」 俺達はいそいそと手を合わせて食べる。 生姜焼きはタレが絡まっていて肉が柔らかい。 甘めの濃い味付けにご飯が進む。 ハフハフと無言で食べ進める。 体が熱くなってきて袖を捲ってしまった。 「なんですか。それ。」 しまった、目の前に座るシマさんは俺の手首を見ている。 美味しいご飯に痣のことを忘れていた。 苦笑いを浮かべながら言い訳を並べる。 「いや、ちょっとぶつけちゃって、、、、。」 手形痣だからぶつけた訳ではないのがわかる。 苦し紛れに放つにしてももっといい言い方があっただろう。 シマさんは怪訝な目を俺に向けている。 気まずくて目を逸らすとシマさんの手が俺の手を包み込む。 優しい手つきに慈しむような視線を向けらる。 「僕ならこんなことしません。もっと大切にします。僕じゃダメですか。」 シマさんの手に少し力がこもって、じんわりと手汗が滲む。 きっとヒロといったて俺は幸せになんてなれない。 それでも隣にいたくて心の傷を無視し続けて、あの日ついに爆発した。 そんなヒロを忘れるためだけに利用した俺をシマさんは見続けてくれていた。 彼を裏切った証でもある痣を優しくさすられる。 心がじんわりと温まった。 「今まですみませんでした。俺、シマさんが好きです。」 この気持ちはきっと嘘じゃない。 俺はずるいことを言ったそれなのに、シマさんは微笑んでくれる。 「僕もミツルさんが好きです。」 お昼時で忙しい店内で俺達の間には甘いゆったりとした時間が流れる。 シマさんは俺を見つめていて、気恥ずかしくて生姜焼きを食べようと皿に目を向けると唐揚げが一つ置かれていた。 あわてて俺の生姜焼きも差し出す。 「あ、生姜焼きも美味しいですね。」 「はい。唐揚げもうまいです。」 分け合ったおかずを自分のおかずよりも少し長めに味わった。 満腹感と幸福感に満たされながら店をでる。 正直、すぐにでも眠ってしまいそうだ。 大きなあくびをしていると、 「あの、僕の家きませんか。」 シマさんが真っ赤な顔をして言う。 まだ昼過ぎだから外は明るいけどそういことだろう。 なんだか今日のシマさんは積極的だ。 俺達が体を重ねたのは清いお付き合いが続けられていたから初めの一回だけ。 あんな俺が襲ったみたいなのじゃなくてちゃんとしたい。 「いいですよ。」 そう微笑むとシマさんは緊張が解けたのかくしゃりと笑った。

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